2026年4月8日水曜日

注意欠如多動症の傾向 3:多動-衝動性

  本節では、DSM-5-TR[1]の注意欠如多動症診断基準の中の(2)多動-衝動性の症状項目を見ていきましょう。多動-衝動性症状9項目のうち、最初の6項目は主として多動を、残り3項目は衝動性を表す行動です。ただ、厳密には区別しにくいと思います。a)から(i)までの全9項目のうち、日常の様子を念頭に置いて当てはまる数が多いほど多動-衝動性の強い子と判断できます。『』内はDSM-5-TRの注意欠如多動症診断基準の(2)多動-衝動性からの引用です。

『(a) しばしば手足をそわそわと動かしたりトントン叩いたりする,またはいすの上でもじもじする.』

 多動は目につく特徴なので、迷うことはあまりないと思います。ただ、普段と違う緊張する場面では目立たなくなる子供もいるので、病院の診察室では目立たないことはよくあります。学校や保育所幼稚園などは日常の様子を見ることができる場なので、最も判断しやすいと思います。ただ、不安が極端に強い子供や場面緘黙の子供では、学校園で(特に厳しい担任の先生がいるときは)多動が目立たないこともあります。

『(b) 席についていることが求められる場面でしばしば席を離れる (例:教室,職場,他の作業場所で,またはそこにとどまることを要求される他の場面で,自分の場所を離れる).』

 幼稚園や保育所では、みんなで集まって先生の話を聞いているときや紙芝居の時間に席を立ったり歩いたりする姿がよくみられます。小学校では授業中に立ち歩くことになりますが、しばしば目にするのはせいぜい低学年までではないでしょうか。高学年になれば学級崩壊のような特殊な状況でなければ授業中に立ち歩く姿は滅多にみられないと思います。座っていないといけない状況で立ち歩く子がいるとき、単なる多動傾向の表れの場合もあるのですが、その場で与えられている課題が難しすぎることや苦痛を与える嫌悪刺激になっていることが多いです。立ち歩く子供にとって適切な活動が用意されているのかどうかを検討しなおした方が良いでしょう。

『(c) 不適切な状況でしばしば走り回ったり高い所へ登ったりする (注:青年または成人では,落着かない感じのみに限られるかも知れない).』

 保育所や幼稚園では保育室の中、学校の廊下、皆が整列している運動場などで走り回っている状況です。また、生垣の上や塀に登ったり飛び降りたりと、何かと高いところへ行こうとしがちです。このような派手な動きは授業や活動への強い不適応状態になっていなければ小学校の高学年に向けて減ってくることが普通です。ただ、(c)の記述にあるように思春期になれば見た目の動きではなく主観も取り上げていますので、本人に質問しないと気づかないことがあります。

『(d) 静かに遊んだり余暇活動につくことがしばしばできない.』

 (d)は、何をしていてもにぎやかでうるさい様を表しています。しきりに喋ったり歌ったり、物をひっくり返したり叩いたり、何かに黙々と取り組む様子がほとんど見られない状態です。1人でも賑やかですが、しばしば他の子供も巻き込んでしまいます。

『(e) しばしば"じっとしていない",またはまるで"エンジンで動かされているように"行動する (例:レストランや会議に長時間とどまることができないかまたは不快に感じる;他の人達には,落ち着かないとか,一緒にいることが困難と感じられるかもしれない).』

 これは、間を開けることなく次々と何かをしており、休む暇もない様子を指しています。取り立ててすることがない時でも、あたりをうろうろと歩き回っていたりします。いわゆる「忙しい」状態です。ただし、このような姿は自由なときに見られやすいです。小学校の授業中のように、ある程度強く統制されている状況では、単にぼんやりとしていることの方が目立つかもしれません。

『(f) しばしばしゃべりすぎる.』

 文字通り喋りすぎる状態です。思いついたことは喋らずにいられないという衝動性との区別は難しいのですが、次から次へと話したいことが頭の中に湧いてくるという感じです。自閉スペクトラム症の子供でも相手の都合にお構いなく喋り続けることの多い子供がいます。自閉スペクトラム症傾向のない注意欠如多動症の子供では、話す内容がどんどん変わっていくことは少ないですし、喋りながらも相手と噛み合ったやり取りができることが普通です。

『(g) しばしば質問が終わる前に出し抜いて答え始めてしまう (例:他の人たちの言葉の続きを言ってしまう;会話で自分の番を待つことができない).』

 (g)は人の話が終わるのが待ちきれず、頭に浮かんだことをつい喋り出してしまう状態です。相手が言い終わる前に答え出すことや、相手が一瞬言い淀むとすぐに「〇〇と言いたいの?」などと先取りしようとすることが多いです。会話の相手が話している番なのに、それを遮って喋り出すことがしばしばあります。指示を最後まで聞かずに動き出すことも多いです。思いついたことをすぐに行動に移してしまうことだと考えれば、気になったものはすぐに触ろうとすることや、興味を持った対象に向かって走り出すようなことも(g)に含まれると思います。

『(h) しばしば自分の順番を待つことが困難である (例:列に並んでいる時).』

 とにかく待つことが難しい状態です。並ばないといけない状況で順番を抜かすこともありますし、順番を抜かしてはいけないとしっかり認識してはいるものの待つことが嫌でその場から逃げ出したりすることもあります。

 なお、(g)と(h)は待つことが難しいという共通の特性を反映しており、特定の行動をどちらに当てはめれば良いのか判断に困ることが多いです。そのようなときはあまり真剣に悩まず、エイヤッ!と決めれば良いと思います。

『(i) しばしば他人を妨害し,邪魔する (例:会話,ゲーム,または活動に干渉する;相手に聞かずにまたは許可を得ずに他人の物を使い始めるかもしれない;青年または成人では,他人のしていることに口出ししたり,横取りすることがあるかもしれない).』

 衝動性のある子供は人の活動から影響を受けやすいです。ただ単に気が散ってしまうことも多いのですが、気になった他者の活動に干渉してしまうことも多いです。単純に友好的に参加しようとするのならまだ良いのですが、相手が使っていた物を自分が使おうとしたり、相手の活動を悪く言ったり、明らかに相手の邪魔をしようとしたりもします。当然、相手からすれば邪魔で鬱陶しい状況ですから、喧嘩に発展することも多いです。

 多動-衝動性は小学校高学年に近付くほど目立たなくなることが普通です。ただ、(c)で説明しましたように、年齢が上がっても主観の中でじっとできない気持ちが生じやすいことはあります。また、(f)の喋りすぎることや、(g)の人が話している最中に話し始めることは結構大人になるまで見られることが多い印象が私にはあります。

 衝動性に関して補足しておきます。衝動性が激しいかんしゃくにつながったり、些細なことで他者に手が出ることにつながったりもします。ただ、激しい感情爆発やしつこく他者を攻撃する行動は注意欠如多動症の傾向としての衝動性とは分けて考えた方がよさそうです。注意欠如多動症に見られる典型的な衝動性には、常時見られる、大きなエネルギーを必要としない些細な行動、原則として短時間の行動、という特徴があり、加えて他者に対する怒りや敵意を伴わないことが原則です。

 余談ですが、激しく長時間持続するかんしゃくや、他者に対する暴言暴力が注意欠如多動症や自閉スペクトラム症に伴う頻度が高いことは事実です。しかし、かんしゃくや他者への攻撃性は注意欠如多動症や自閉スペクトラム症の基本的特徴ではありません。就学年齢前後以降に見られる激しいかんしゃくや攻撃性は、不適切な環境で暮らす中で生じた二次的に生じた問題と考えた方が良いということを知っておいてください。

参考書:

[1]APA、日本精神神経学会、他「DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル」医学書院

「学校園でできるアセスメント」:目次


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