2023年1月2日月曜日

自閉症をどう理解するか

 随分久しぶりに丁寧に論文を読んだ。論文を読むこと自体が久し振りとも言えるのだが。

Pellicano E & den Houting J. Annual Research Review: Shifting from ‘normal science’ to neurodiversity in autism science. J Child Psychol Psychiatry. 2022 Apr;63(4):381-396.  doi: 10.1111/jcpp.13534.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9298391/

 自閉症という概念の捉え方の変化を解説したもので、具体的には神経多様性パラダイム(neurodiversity paradigm)の解説である。伝統的な医学的自閉症観では自閉症を障害と捉える。自閉症者に見られる特徴をすべて障害や欠陥として扱う。そして、自閉症者への援助の根底には障害である「自閉症」を消すことを目指すという暗黙の了解がある。医学的自閉症觀で最も重視されることは、自閉症の遺伝学的・生物学的原因を明らかにすることである。そして、遺伝学的・生物学的原因を明らかにすることは自閉症者を「正常」に近づけるべく治療をすることに連なる。

 神経多様性パラダイムは医学的な自閉症観に異議を唱え、自閉症者を、平均的な人と比べての強みも弱みも含めて、ありのままに受け止め、尊重し、敬意を払おうという考え方である。その上で、自閉症者達自身のニーズや主張を聞いた上で自閉症研究や支援方法の開発を目指す必要があるという主張も含まれる。

 僕にとって神経多様性という考え方は、5年くらい前にSilberman Sによる”Neuro Tribes”を読んで以来関心を持ってきた概念である。僕自身は神経多様性に共感を抱いているのだが、さて、具体的に社会に実装すると考えるとハードルの高さに眩暈がしそうでもある。ただ、Pellicanoとden Houtingによれば、劇的ではないものの自閉症研究の世界では明確な変化が見られだしているとのことで、喜ばしい。

 この論文の中に気になった点が一つある。自閉症者に対する不適切な治療的取り組みの代表として応用行動分析(ABA)を取り上げている。この文章の中ではABAを、電気ショックという嫌悪刺激を用いたごく特殊な取り組みや、(ごく特殊とまでは言えないが)自閉症者の行動を「普通の人」の行動に近づけるために行われる取り組みのことを指している。詳しくない人が何気なく読むと、応用行動分析は非常に悪しき治療法という印象を持ちそうだ。しかし、本来応用行動分析とは単なる心理学の1領域にしか過ぎない。特定の方法(e.g. 電気ショック)や特定の目的(e.g. 自閉症者の行動を「普通の人」の行動に近づける)を示すものではない。理論や学問という普遍性のある名称を、個別事例の名称として用いられると困るなあと思う。