2022年3月13日日曜日

知能の高い子ども

  この文章は、公開している下記の文章の加筆した1項目である。

「発達障害を伴う子供を支援するために

—保育者や教師が最初に知っておくと良いこと—」

https://drive.google.com/file/d/12O2PnRKzTsP4iDQvMfCIUM-PK_VSHwvn/view?usp=sharing


 時に,極めて知能の高い子どもがいます。厳密な定義があるわけではありませんが,知能検査でIQが130~140を超えるような子供です。知能が高いと聞けば良いことのように感じるかもしれませんが,意外にそうではありません。平均的な子ども集団の中で暮らしていくことにかなりストレスを感じることが多いのです。知能が高い子供が自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症の特徴を有することもしばしばあり,このような時はひときわ暮らし難さが増しやすく,特別な配慮が必要です。この項ではそのような子供たちへの日常の配慮の要点を整理します。ただし、客観的な根拠がある話ではありません。あくまで経験の中でまとまってきた、少なくともこの程度に考えても良いのではないかという私個人の考えを記述しています。知能が著しく高い子供への支援については客観的な知見の蓄積はまだ不十分なようです。まとまった記述のある成書も乏しいです。私自身が把握しているものをご紹介しますと、翻訳物ではJ. T. ウェブら(注1)、日本人では松村 暢隆(注2)による書籍があるくらいです。以下の記述を読んでいただければ理解していただけると思いますが,指導者は大人としての器を問われているつもりで接し方を考えることが必要です。
 まず,何事もきちんと説明する必要があります。情緒的に説明するのではなく理屈の通った論理的な説明をし,その中で本人の納得を引き出すということが重要です。強引に力でねじ伏せるような指導方法は論外といえます。一見不適切あるいは理不尽な言動でも本人なりの理屈がある場合が多いと考えましょう。こういう時に一方的に押さえつけるような指導をすると,長期的な成果が期待できないばかりか,かえって問題行動が増加する可能性があります。本人の頭にある理屈を丁寧に聞き出し,その中のもっともな部分の正しさを認めるとともに修正すべきことはなぜ修正すべきなのかを理を尽くして説明する必要があります。
 日々の活動に退屈させない工夫が必要です。集団での活動をすべてその子供に合わせて組む必要はありませんが,他児と全く同じ課題を与え続けると本人にとっては無為な時間を過ごすことになりやすいです。活動に関連付けながらでも本人が興味を持ち,取り組む意義を感じる課題を随時用意する必要があります。時には先生の助手をしてもらったり、課題の理解が難しい子供のサポートをお願いしたりすると良いこともあります。ただ、当然のように特定の子供の世話を押し付けることがないようにすべきです。
 習っていない知識を披露したり習っていない解法で問題を解いたりしたときにそれを非難することは避けなければいけません。むしろ,その知的好奇心を讃えるべきです。授業の流れの都合があれば常にその場で時間をかけて付き合う必要はありませんが,可能な限り別の時間をとり本人の意見や考えを聞き取り吟味し,正しい考えについては正当に評価するべきです。指導者はお子様の考えや意見の正誤を学問的に認められる根拠に基づいて判断し説明すべきであり,学問的には間違っていないことを指導の方便の都合で間違いと告げるようなことは決してすべきではありません。
 高い能力と,それとは不釣り合いに幼い面が共存していることを十分に意識する必要があります。本人の知的レベルとは整合性の欠けた幼い考え方や振る舞い方しかできない面を非難すべきではありませんし,高い能力に対してはそれに見合った敬意を表する必要があります。特に、社会性に関して未熟なことがよくあります。ずけずけと指導者の間違いを指摘することも多いかもしれません。その場合の最適解は、指導者が素直に誤りを認めることです。運動や手先の使い方が未熟なことも珍しくはないと思います。
 まだまだ人生経験が乏しいわけですから、視野が狭く、考え方に多様性がないことが多いと思います。人の考え方,感じ方,境遇,生活,物事がうまくいくかどうかや予定どおりに物事がすすむかどうかなど,様々な面で世界は多様であることに少しずつ気づかせる必要があります。そのためには,興味を持てるものからでよいので本を読む習慣を促し,読書体験を広げていくことが役に立つかもしれません。
 子ども同士で一体となることを強制しないように注意しましょう。他者に対して礼儀正しく接することは求めるべきですが,他者と仲良くする必要は必ずしもありません。その子供によって感じ方は多様ですが、知能が高い子供は往往にして同年代の子供の活動に退屈しがちです。同年齢の子供たちの遊びに無理に合わせるよりも、自分の知的好奇心に基づいた活動をしたいと考えることを自然なことと認める必要があります。また,興味の有る活動や分野を軸に世代を超えた人間関係を構築できる場があると望ましいと考えます。子供だからといって子供だけの閉じた世界にとどまらせる必要はありません。

注1:J. T. ウェブ、他「ギフティッド その誤診と重複診断: 心理・医療・教育の現場から」北大路書房、2019年.
注2:松村 暢隆「2E教育の理解と実践: 発達障害児の才能を活かす」金子書房、2018年.

注3:この項を書き終えてから下記の本の存在を知りました。家族や教師にとっては上の2冊よりも有用かもしれません。
片桐正敏、他「ギフテッドの個性を知り伸ばす方法」小学館、2021年.