2015年5月31日日曜日

発達障害のある子供に対する支援における診断の意味

発達障害には様々な病型が含まれる。支援者は個々の診断についての詳しい知識を取得し、理解することが望ましい。ただ、個別の診断について学ぶのも良いが、発達障害の診断というものが共通して持つ意味を総論的に理解しておく方が良い。というようなことを書いた文章を「NPO法人全国ことばをはぐくむ会」の会誌「ことば」に寄稿した。ここに置いておく。
 なお、この原稿の公開にあたり、「NPO法人全国ことばを育む会」理事長である加藤碩様の承諾を得ている。

荻野竜也 (2015). 発達障害のある子供に対する支援における診断の意味. ことば 278号, 2-5.

2015年5月19日火曜日

朝の支度が遅い

 朝の支度に時間がかかり、遅刻しそうになる子供がよくいる。母親が「起きなさいよー」と言ってもなかなか起きない、「着替えなさいよー」と言ってもなかなか着替えない、「ご飯よ」と言っても別のことをしているという調子だ。共働き家庭であれば、両親ともに朝は忙しい。何としても職場に間に合うように家を出ないといけない。毎朝毎朝子供がぐずぐずとして遅刻しそうになれば、とても穏やかでいられない。
 例えば、すぐに着替えられない子供は何故そうなのかを考察してみる。色々な場合が有りそうだ。着替えるという作業がひどく膨大で手間がかかる作業に思えて面倒に感じ、手をつける覚悟がなかなかできない子供がいるかもしれない。何をしたら良いのか、手順を把握できていない子供もいるだろう。今何をすべきか、今何をしている最中なのか、ということを意識し続けられないのかもしれない。何かに気を取られ、一旦気が散るとそちらに集中して着替えることに意識を戻せない可能性もある。どの要因が主体なのかは子供によって違うだろうし、1人の子供の中で複数の要因が関わっていることも多いだろう。しかし、不登校の初期など心理的な問題が生じている例を除けば、ほとんどがここに書いたことのいずれかまたは複数が原因になっているのではないかと思う。
 そう考えると、取り敢えずスムーズにことを運びたければ有効な対策はある。手伝えば良いのだ。指示を出して大分時間が経ってから「まだ着替えてないの?早く着替えなさい。何をしていたの?」と怒るくらいなら、最初から「はい、パンツ」、「はいシャツ」、「あ、着るの速いねー」、「直ぐ着てくれて、ありがとう」などと声をかけながら手伝えばよほど物事がスムーズに進み、親のストレスは少ないと思う。ポイントは、着替えという全ての工程を一括して考えずに1ステップごと細かく指示を出すことと、一つ一つの作業を行う毎に褒めたりお礼を言うことである。当然、親は本人の目の前にいないといけない。さらに、本人が自発的に行動しかけている時は指示を出さずに待つことも留意すべきである。そして、着替え終わったら手柄を全て本人に献上して「君は毎日さっさと着替えるから助かるなあ。」などと褒めておけば良い。本人に付きっ切りなんて忙しくてできないと思うかもしれないが、いつまでも準備ができずギリギリになって怒り心頭に達するよりも余程楽だと思う。
 朝の支度に手間取ると悩んでいる親にこういうことを言うと、何もかも手伝うと自立できないと心配する人がとても多い。自分でさせないと自立できないという考え方はとても根強い。しかし、何故子供の朝の支度で悩んでいるのだろうか。それは、いつまでたってもうまくいかないからに他ならない。2、3回の指示で自発的にできるようになったのであれば、今現在悩んでいるはずがない。何度も何度も同じように子供に指示したり叱ったりを繰り返しているから、そして成果が上がらないから悩んでいるのである。現状では、何らかの理由で現在の指示の出し方では上手くいかない、本人の立場から言えば「できない」のである。できないことを成し遂げようと、親子で足掻いているのである。
 この状態はさらに、積極的に問題を拡大している可能性がある。どういうことかと言えば、繰り返し指示が出されているのになかなか指示通り動かず、最後には強く叱られるというパターンを繰り返す時、子供は何を学習しているかということを考えないといけない。指示される、上手くできない、叱られる、変わらぬ日常が繰り返される、というサイクルを繰り返すうちに、親の指示に従わなくても現実は何も変わらないということを学習してしまうのである。このサイクルを繰り返すほど、ますます親の言葉の重みは低下する。しかも、指示に従わなくても良いと学習しながらも、本人の心は平和ではない。上手くできない自分という経験を持続的に繰り返すことで、自己評価は低下するのである。「どうせ俺なんて、」という発想につながっていくのである。
 僕は、物事を上手くこなせないでいる子供がいれば、どんどん手伝えば良いと思っている。成功しないまま、叱られることが日々続く状態で、子供が得るものはほとんどない。できないことが放置されたまま自立が進むとはとても思えない。日々叱られて自信を失った状態では成長するチャンスは目減りするばかりだと思う。人の力を借りながらでも、すべきことを日々きちんとしたという実績を積み上げる方が自負心を育むと思う。重要なことは自分でさせることではない。本人ができるようになったことをきちんと見極め、手助けが不必要になった部分は順次手を引いていくことだと思う。一押しすれば次の段階に進めそうな子は放置しても良い。しかし、本当に行き詰まっている子供には手助けを躊躇すべきではない。