Wing L, Gould J, Gillberg C. Autism spectrum disorders in the DSM-V: Better or worse than the DSM-IV? Res Dev Disabil 32:768-773,2011
この論文はDSM5のproposalの段階でのASD診断基準に関するコメント。既にDSM5正式版が発行された現在読んでも参考になることが書いてある。
僕にとって一番の収穫は、Wingの三つ組みを改めて説明していることだ。それによると、
1)Impairment of social interaction(社会的相互作用の障害):他者と共に以下の状況にあることへの興味や喜びを示す非言語的表現が著しく減少している;目を合わすこと、微笑みかけ微笑みに答えること、包容やキスの様な親愛に満ちた体の接触、挨拶、手を振ってさよならをすること。社交的な子どもでは、言語を身につけるより遥か以前の生まれた時から社会的相互作用の始まりが認められる。また、重度の障害があり話すことが出来ない、移動すら出来ない子どもや成人であっても社交的な人であれば社会的相互作用が認められる。今までWingの著書を色々読んでも「社会的想像力の障害」が具体的に何を指しているのか今一つ分かりにくかった。見立て遊びやごっこ遊びの欠如と関係ありそうなのだが、それだけで定義されているようでも無かった。今回、この論文を読んで「自分の行動が自分および他者にどういう結果をもたらすか予測する」ことの苦手さを指しているということが明確になった。自分の行動が自分自身や他人にもたらす結果を予測する能力といえば心の理論を彷彿とさせる。しかし、心の理論は人には人の心の状態があることを認識し、それに基づいて人の行動を予測する能力であるから、自分の行動の結果を予測する能力とは無関係ではないが同じとは言えないだろう。
2)Impairment of social communication(社会的コミュニケーションの障害):他者と非言語的あるいは言語的に交わり、考えや興味を分かち合ったり、前向きで友好的に交渉したりする能力が低下している。典型的に発達している子どもで最も早く見られる社会的コミュニケーションの徴候は、乳児期後半に認められる興味を共有するための共同参照(joint referencing)である。自閉症スペクトラムの人々はしばしば聞いた事を理解することに問題があり、物事を字義通りに解釈しがちだ。
3)Impairment of social imagination(社会的想像力の障害):自分自身の行動が自分自身や他者にもたらす結果について考えたり予測したりする能力の低さ。典型的な発達ではこれは3歳を超えるまでは発達しない。この能力の障害はおそらくどのタイプであれ自閉症スペクトラムを有する結果の中で最も重要で障害となる。我々は、DSM-IVやDSM-V(およびICD-10)の設計者達はこの障害のことを無視すべきではなかったと信じている。DSMはそうしないで、社会的想像力の障害ではなく反復的行動パターンを三つ組みの最終項目として導入している。
WIngらは自閉症スペクトラムの基本的構成要素として反復的行動パターンよりも社会的想像力の障害を取り上げるべきと主張している。しかし、心の理論障害よりは具体的行動で観察しやすいとは思うが、操作的定義に組み込むには難しいのではないかという気がする。
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