千住 淳さんの自発的な社会的認知についての総説を読んだ。自閉症スペクトラム(ASD)患者は他者が誤信念を有することの認識(心の理論)、模倣、そして視線認知に問題があることが多くのデータで示されている。しかし、特に高機能ASDにおいては、これらの能力に関する課題で標準的発達を示す対照群との差が認められないという報告もなされている。この総説では、誤信念を有することの認識、模倣、視線認知に関して、自発的(spontaneous)発現に焦点を当てて最近の知見をまとめている。
Senju A. Atypical development of spontaneous social cognition in autism spectrum disorders. Brain Dev 35:96-101
誤信念課題に関しては、明示的な教示をしない課題を使った実験を紹介している。何を考えるべきか明確な教示をする標準的な誤信念課題では対照群と差がない成績を出す高機能ASD成人を対象としている。彼らに何も教示せずに主人公が誤信念を抱く状況をVTRで見せ視線の動きを検討すると、標準的発達を遂げた対照群に認められる登場人物の誤信念に基づいた予期的視線変化がASD成人では認められなかった(なお、この課題では標準的発達の2歳児でも予期的視線変化が認められる)。このことから、ASDは必ずしも誤信念課題解決に必要な全ての能力が欠けている訳ではなく、その能力を自発的に用いることに問題があると言える。
ASDにおける模倣の異常が指摘されている。ただ、明確な教示のもとではASD者は目的指向的行動を模倣することが出来る。また、他者の表情を自発的に模倣しないASD児が明確に指示されると模倣が可能であることや、ASD児ではあくびの伝染が認められないことなども報告されている。これらの知見は自発的模倣あるいは行動の同調傾向がASD者には欠けていることを示している。ただ、その後の実験では他者に何らかの注意を向けている時には、ASD者にも自発的模倣が認められることも確認されている。
特に社会的な、あるいはコミュニケーションを取るための行動を目撃した時に相手の目に注目する傾向がASD者では弱い。この目に向ける注意の弱さがASD者の顔認知の特異性の基盤の一部になっている可能性がある。ただ、発汗などで評価した他者の視線に対する生理的覚醒は対照群と同様にASDでも確認できる。他者の視線により生理的覚醒が引き起こされるにも関わらず、それが現実の他者の目に対する認知・行動に結びつかない。
この総説に書いてあることは概ね以上である。この総説ではcentral coherenceの弱さについては取り上げられていない。central coherence関連課題でもASD者は明示的に指示されていれば全体処理が可能であり、あくまで明示的教示が無い場合に部分処理に偏る。このことも、この総説に書かれていることとつながる様な気がする。
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