自閉症がらみの用語が多くて、親や教師・保育士が混乱している事がよくある。DSM5になって、「自閉症スペクトラム」が加わったものだから、さらに「???」となる人が増えそう。ちょっと自閉症の歴史を付け焼き刃でまとめてみた。
1943年にアメリカでカナーが人との情緒的触れ合いの根本的欠如と変化への強い抵抗を示す11人の子供達を「早期幼児自閉症」として報告した。翌1944年にオーストリアのアスペルガーがカナーの症例と類似した特徴を持つ患者を「自閉的精神病質」として報告した。以後、社会性の障害を特徴とする様々な概念が色々な研究者によって提唱された。1970年代にウィングとグールドがイギリスのキャンバーウェル地区の調査で、カナーやアスペルガーが定義した様な患者以外にも、様々なレベルの自閉症的な特徴を持つ子供が存在していることを見出した。その子供達は共通して、社会的相互作用の障害、コミュニケーションの障害、想像的活動の障害および反復的な行動パターンを示していた。ウィングとグールドは、カナー型やアスペルガー型の子供も含めて広く連続的な概念として「自閉症スペクトラム」と名付けた。
一方、1987年のアメリカ精神医学会の精神障害の診断と統計の手引き第3版改訂版(DSM-III-R)および1994年に発行された第4版(DSM-IV)において、自閉症スペクトラムとほぼ同じ意味で「広汎性発達障害」という診断名が採用され、これが世界中に普及した。広汎性発達障害はウィングらの自閉症スペクトラムの考え方の影響を受けたものだが、大きな違いとして、広汎性発達障害の名の下に「自閉性障害」、「レット障害」、「小児期崩壊性障害」、「アスペルガー障害」、「特定不能の広汎性発達障害」の5つの下位カテゴリーが区別されていた。しかし、レット障害は特定の遺伝子異常で生じる特殊な疾患であることが判明したし、他の4病型の境界は明確ではないという問題点があった。2013年にDSMは第5版(DSM5)に改訂されたが、広汎性発達障害からレット障害が除外され、残りの4つの下位カテゴリーの区別も廃止されて連続的な概念となった。さらに、広汎性発達障害という名称も自閉症スペクトラムに変更された。
以上の様な経緯があるため、世間には自閉症スペクトラムに関係した多くの用語が存在する。特に、「広汎性発達障害」、「自閉性障害・自閉症」、「アスペルガー障害」、「特定不能の広汎性発達障害」という言葉を耳にすることが多いのではないかと思うが、患者家族や教師・保育士の立場では、全て自閉症スペクトラムと同じ意味だと割り切っても、実質的な問題は無いと思う。
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