2014年8月2日土曜日

共感覚

https://www.facebook.com/amnesictatsu/posts/689803514371074 (2013/11/17) より転載

先日、共感覚に興味を持つ学生がいたことがきっかけで探してみると、open access reviewを見つけたので読んでみた。
Mylopoulos MI, Ro T. Synesthesia: a colorful word with a touching sound? Front Psychol. 4:763,2013
http://www.frontiersin.org/Cognitive_Science/10.3389/fpsyg.2013.00763/abstract

評価方法に焦点を当てて共感覚にまつわる問題点を解説している。単なる読後メモ。
視覚心像(visual imagery)などの他の感覚受容現象と区別をつけるために役に立つ共感覚の3つの特徴;

(1) automaticity:共感覚は意図的に制御できない。
(2) reliability:引き金となる刺激を知覚した時には確実に共感覚反応が生じる。
(3) consistency:時が経っても同じ刺激に対して同じ共感覚反応が生じる。ただしこれは共感覚の中核的特徴ではない。

“test of genuineness” (TOG):共感覚の診断に最も広く使われている方法。特定の刺激に対してどのような知覚反応が生じるかを確認し、1年以上経ってから警告無しにもう一度同じ評価を行う。この評価法はconsistencyを確認することが出来る。ただ、この方法ではautomaticityやreliabilityの確認は出来ない。また、記憶に基づいて判断している可能性も残る。

【共感覚を理解するための心理課題】

Stroop task:grapheme-color synestheteに対して共感覚を惹起する書記素(文字)を提示し、その文字を答えさせる。共感覚を持つ人はincongruent trial(文字の色とその文字に惹起される共感覚の色が異なる)ではcongruent trialよりも反応が遅くなる。この課題はautomaticityを示すことが出来る。ただ、この課題で共感覚が知覚に基づくのか認知に基づくのかを区別することは出来ない。もしも共感覚がない人に書記素と色の対応を訓練すると、共感覚者と同様にincongruent trialで反応が遅くなる。このことは、Stroopの所見が純粋に知覚に基づく必要がないことを示している。

視覚的探査課題:視覚刺激の配列の中に標的刺激が存在するかどうかを判断する課題。標的刺激が他の刺激(distractor)と一つの感覚様態(形、色、etc.)で異なっていれば標的刺激が被験者の注意を引きつける(pop-out effect)。共感覚者にこの課題を施行すると共感覚によりpop-out effectが生じ、それはpreattention processであろうという原理が想定されている。ただ、視覚的探査課題を用いた研究の報告では予想に一致するものとそうではないものが混在している。また、共感覚者の成績が良かった場合でも本人の主観を聞き取ると、配列全体からは共感覚は感じられなかったり、複数の標的刺激が埋め込まれている時に一つ一つに対してしか共感覚が生じなかったという報告があり、注意や高次認知処理が関与している可能性が示唆されている。

PERCEPTUAL CROWDINGEXPERIMENTS:視野の周辺部に一文字を提示しても容易に認識できる。しかし、その標的文字が両側に非標的文字によって挟まれていると認識しにくくなる。これをcrowding effectという。もしも標的文字に非表的文字とは異なる色がついていると認識しやすくなる。grapheme-color synestheteに対して共感覚を惹起する標的文字を提示すると標的文字の認識が早くなるかもしれない。実際には、視覚的探査課題と同様に予想通りの結果と予想に反する結果が混在している。

【共感覚は本人の外にあるのか、頭の中にあるのか】

共感覚者はprojector synestheteとassociator synestheteに分けられることが多い。前者は共感覚を空間の中にある(out there in space)と表現し、後者は心の目にあると表現する。projectorかassociatorかの判断は本人の主観的報告に依存しているため、種々の混乱が生じやすい。Stroop taskでは、incongruent条件に置いてprojectorは文字から引き起こされる共感覚の色の呼称がassociatorよりもスムーズだし、逆にassociatorは文字本来の色の呼称がスムーズである。Stroopにおいてはprojectorの方がよりautomaticであると言える。fMRIを用いた研究では、projectorの共感覚は主として紡錘回によって駆動されるbottom-up processであり、associatorでは頭頂葉上部を経由するtop-down processであることが示されている。

これとは別に、しばしば共感覚は“higher”と“lower”に分類される。higherの方は物理的な引き金刺激が存在しないときでも、刺激に関連したことを考えたりイメージするだけで共感覚が惹起される。また、higherは共感覚を誘発する物理的刺激の感覚的特徴だけではなく、概念的特徴によって共感覚が惹起されるとも説明されている。これに対して、lowerでは共感覚体験を惹起するためには物理的刺激を必要とする。例えば「5」によって共感覚が誘発されるhigherの場合、「V」でも「five」でも同じ共感覚が引き起こされる。しかし、lowerでは「5」のみで共感覚が引き起こされる。“higher”と“lower”の区別はassociatorとprojectorに対応するとの主張もあるが、結論は出ていない。

0 件のコメント:

コメントを投稿