2014年8月2日土曜日

梅野潤子「研究ってなんだろう:はじめて取り組むあなたのための論文作成ノート」

https://www.facebook.com/amnesictatsu/posts/661461377205288 (2013/10/4) より転載

テストを兼ねた再投稿
梅野潤子「研究ってなんだろう:はじめて取り組むあなたのための論文作成ノート」高菅出版
大学生のために学び方を解説した本である。この種の本は色々読んだが、もちろん本書にも他書で記されていることと共通したことが書かれている。しかし、本書は全体的な構成や目的が類書とはやや異なっているように思う。
まず、念頭に置かれた読者として、学部生、特に学び始めたばかりの「研究のケの字も知らない」学生を想定しているようだ。文章も柔らかく読者を安心させる雰囲気をたたえているし、文章の量も少なめであるため一気に読めそうである(ただし、書かれていることは簡単なことばかりではない)。加えて、社会福祉系学部の学生を強くイメージしているようだが、他の分野、特に教育、保健などの勉強をしている人にも通用する内容である。
第2に、一般のアカデミックスキルズの解説書は体系的に纏められており、個々のトピックごとに解説されているし、大学での学び全体を網羅しようとしていることが普通である。これに対し、本書は「研究」にテーマを絞り、卒論完成に至るまでの時系列に沿って何が必要かを順次記載している。学生は折々に読み返せばまるでメンターが寄り添ってアドバイスしてくれている様な気になるかもしれない。また、新入生が一度読めば大学での研究をどう進めていくかイメージしやすいだろう。スケジュールやToDoリストなど時間管理にページを割いていることは他書でも見られるが、本書の時系列に沿った記述により一層意義が分かりやすい。
第3に、本の構成は導入部である第1章で全体を俯瞰し、さらに大まかな骨子を説明し、そして第2章で具体的な各論に進むという手順を踏み、読者にとって見通しをつけやすくしている。
第4に、研究は実践へ繋がる基礎となるという考えを強く打ち出し、卒業後の実践の場でこそ研究することの価値が活かされるということに読者の目を向けさせている。実践と研究を別物とする考え方とは一線を画しているが、今後実践家向けに研究の意義を説く著書を執筆することが望まれる。
まとめると、大学生が大学での学びを考える上で最初に読むと良い本である。領域ごとの具体的スキル(例えば批判的読解の技術など)については記載が十分ではない面もあるが、本書を読んで走り出した学生であれば、必要に応じて他の本も主体的に読むことが期待できそうである。
とはいえ、ここまで親切に記載された手引書を読んでも、大学で主体的に学ぶということは結構ハードルが高いことであるなと思わざるを得ない。

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