大学に入学予定の高校生達が書いた感想文を読んでいる。課題図書は言語発達のメカニズムを解説したものなのに、やたらと将来への教訓話に押し込めてしまう人が多い。知的に面白がるだけで良いではないかとむかっ腹を立てながら、学生達にコメントを書いた。
追記(2015/6/8):学生に読んでもらった課題図書は下記のものである。
今井むつみ「ことばの発達の謎を解く」筑摩書房、2013
【この文章は、私が担当した方々全員に書いています。
「言葉の発達の謎を解く」という本はどのように人が言葉を獲得していくのだろうかということについて書かれています。皆さんも読んで気付かれたと思いますが、既に十二分に分かっていることを教科書の様に解説している本ではありません。言語発達のことを調べている研究者達が、一つ一つ小さな問いを立て(例:何を手がかりに音節を区別するのか、固有名詞と普通名詞をどのように区別するのか、etc.)、そしてそれを明らかにするために様々な手段を工夫し、その結果あくまで仮説ではあるけれど問いに対する答えを見出して行く、その過程を出来るだけ具体的に分かりやすく解説しているのです。
皆さんはこの本を真面目に読み、感じたことや考えたことを率直に文章にしてくれました。そのことは高く評価します。ただ、皆さんの原稿を読んで少し引っかかるところもありました。それは、「保育士になった時にはこの本から得た知識を生かして〜」というふうに、この本から何らかの教訓を得ようとされている人が多かったからです。どのようなことでもそれを自分の将来への教訓とすることは悪いことではありません。しかし、いつもいつもそのように物事を教訓として受け止めていると息が詰まります。新しいことを理解することや、謎を解明する筋道の目撃者となることは、それ自体で大変魅力的なことです。物事を明らかにすることの面白さの前では、現実的な教訓や利得は小さなことです。
皆さんは4月から大学生になります。大学での学びの目標は色々あります。保育士や教師の資格を得ることもその一つだと思います。しかし、もっと重要なことがあります。それは、複雑な現象の中からいったい何が問題なのかと自ら問いを立てる力や、その問いに対して自ら解決法を探る力を身に付けるための基礎となる「教養」を身につけることです。すなわち、学問をするための基礎的なトレーニングをすることです(「学問」は「問うて学ぶ」と書きます)。現実社会では、当然保育や教育の現場では、次々と新しい問題が持ち上がります。それを解決して行く時に表面的な知識やハウツー的な対処法を数多く頭に入れておいても限界があります。保育や教育は極めて知的な仕事なのです。経験したことが無い問題が生じた時に最も重要なことは、混沌とした状況を整理し、自ら問いを設定出来る力です。問いを設定することが出来ると解決法は目前に有ることが多いものです。
「言葉の発達の謎を解く」のような学術研究の成果を解説した本を読むときには、研究者達がどのような問いを立てどのような解決法を工夫したかを理解し、さらには自分でも新たな疑問や問いを設定することを楽しんでもらいたいと思います。そのような読書法は自ら問いを設定し解決法を探す力を身につけることにきっと役に立つと思います。】
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