昔から、勉強の基本は読み書き計算と言われています。これは今でもそう変わっていないのではないでしょうか。読み書き計算がしっかりとできていれば、国語や算数以外の勉強を発展させることができます。逆に、読み書き計算で大きく躓けば、国語と算数にとどまらず、他の教科でも早晩うまくいかなくなることが予測できます。したがって、学習に関する問題では最初に読字の問題について取り上げました。当然、次に進むべきは算数の問題だろう、ということになります。しかし、困りました。算数能力の評価と言いましても、算数にはとても多くの要素が絡んでいます。とても私なんかに解説できる代物ではありません。よわった、よわった、と唸っていると良いアイデアが浮かびました。「そうだ、学校でもできるアセスメントを書いた良書を紹介してお茶を濁そう!」
早速良い本を紹介するとしましょう。まずは、「読字の問題」でも紹介した稲垣真澄先生たちのチームによる「特異的発達障害診断・治療のための実践ガイドライン―わかりやすい診断手順と支援の実際―」[1]です。この本には、読字能力の評価法だけではなく、算数に関わる力の評価方法が記載されています。この本に記載された算数関連の評価は大きく分けて(1)計算障害の評価と(2)算数思考課題から構成されます。(1)にはI. 数字の読み(4桁までの数字呼称)、II. 数的事実の知識(一桁の数の加減乗除)、III. 筆算手続きの知識(筆算による加減乗除)が含まれ、それぞれ正誤の判定と回答までにかかる時間が評価されます。(2)には集合分類、集合包摂、可逆の評価が含まれます。
次に紹介する書籍は熊谷恵子先生と山本ゆう先生による「算数障害スクリーニング検査: 適切な学習指導は正確なアセスメントから」[2]です。カバーする範囲は稲垣先生らの本と大きくは違いません。ただ、特に就学前から小学校算数の初期にかけて細かく評価できるように考えられています。同じ著者らによる「通常学級で役立つ 算数障害の理解と指導法」[3]も併せてお薦めしておきます。[2]に比べて支援の工夫についてページを多く割いています。
アセスメントというテーマからは外れますが、算数教育に関連してぜひ紹介したい本がもう一冊あります。河村 暁先生による「数量処理とワーキングメモリから読み解く… 教室の中の算数障害 認知の視点でつくる教材と学習支援」[4]です。認知科学的な視点から、算数で躓く子供のベースにはどのような特徴があるのかを事細かに解説しています。また、現場でどのような工夫ができるのかということについても沢山提案されています。
さて、4冊も素敵な書籍を紹介したので、この節はここで終わっても良いのではないかと思います。終わっても良いのかもしれませんが、駄文を重ねたいと思います。もう少し、お付き合いください。これらの書籍の中に記述されていることではあるのですが、小学校の先生に特に意識していただきたいことを指摘しておこうと思うのです。それは、最も基本的な段階で躓いていることを見逃され続ける子供の存在です。正確な頻度は把握できていませんが、決して稀ではないと考えています。少なくとも、私の外来ではしばしばお目にかかります。
熊谷恵子先生と山本ゆう先生[2][3]によれば、算数障害は(1)数処理、(2)数概念、(3)計算、(4)数的推論(文章題)という4つの領域に整理されます。この4つの領域は、おおよそこの順番で子供が算数を習得する過程となります。(1)数処理は、数詞、数字、具体物の対応関係の理解です。(2)数概念とは数における性質を理解することで、順番を表す序数性の理解と量を表す基数性の理解という2つの側面があります。(3)計算は加減乗除とそれらの筆算の理解です。そして(4)数的推論には問題をイメージに置き換える統合過程と立式するプランニング過程が含まれ、これらの前後に読字読解能力と計算能力も必要となります。このうち、(2)の数概念が習得できているかどうかは分かりにくいのです。(1)から(4)はおおよそこの順番で習得されると申しましたが、(2)が不完全であっても(3)計算を手続として行えることがあります。そのため、数概念の理解が不十分なまま見逃され続け、学年が上がっていく子供たちがいます。習っている学年相当の課題に一見取り組めているので、多少躓いても努力で切り抜けられると判断されやすいのです。しかし、基本的な数概念が習得できていなければ、簡単な計算のうちは計算の意味が心底腑に落ちていなくても操作手順を覚えることでなんとか誤魔化せますが、しばらく同種の問題に取り組んでいないと解き方を忘れてしまい手に負えなくなります。
1年生から2年生にかけて徹底的に確認しておくべきことは数概念(序数性と基数性)がしっかり身についているか、ということです。もちろん、それ以前に数処理が確実にできているかということは重要です。しかし、これは割とわかりやすいと思います。数を唱えさせる、物を数えさせる、数字を読ませる、数詞に応じた数字を書かせる、などの活動をする中で、身についていない部分はすぐに明らかになるでしょう(とはいえ、個別に確認する機会を設けたほうが良いでしょう)。数概念、特に基数が身についているかどうかは通常の算数指導の場ではわかりにくいため、あえて確認する必要がありますし、そのための方法を知る必要があります。
数概念については、1年生の前半では10までの数を、後半に向かって120程度の数を把握できているかについて評価していくことになります。それぞれのレベルにおいて、序数性と基数性の両面の理解を確認していく必要があります。また、基数性に関連して分離量の理解だけでなく、連続量の理解に繋がっているかも確認していきます。序数性を理解するということは、数が系列であって順序を表しているということを理解することです。序数の理解の確認は数を正確に唱えられるかどうかを見ることが基本です(図4の問1)。10までは正しく唱えられても、二桁になると順番が怪しくなる子供がいます。数を唱えることができたら、数と数の順序関係を把握できているかどうかを確認する必要があります。二数の大小関係を確実に答えられるかを確認する方法もありますし、図4の問2のような数列の穴埋めをさせるという方法もあります。
基数性を理解するとは、数を量として把握できることです。もっとも基本は、具体物を数え上げたときに最後の数がそこにある物の量を示しているということを理解しているということです。例えばおはじきを「1、2、3、4、5、6」と数えたら、そこにはおはじきが6個あると、まとまりあるいは量として把握できることです。これがしっかりと把握できていない子どもは、10個のおはじきを順次数えることができても「おはじきを10個ちょうだい」と言われると正しく渡せないことがあります。この感覚は、分離量にとどまらず、連続量にも拡張します。連続量として把握できているかどうかを確認する方法として数直線を用いる方法があります。図5の問1のように数直線上の任意の位置が幾つに相当するかを答えてもらったり、問2のように任意の数に該当する数直線上の位置を答えてもらったりします。また、図5の問3のように、ある長さの直線が特定の数に対応するとき、別の数に対応する直線を書かせるという方法もあります。序数性が身についている子では大小関係を間違えることはありませんが、比率としてはかなり出鱈目な直線を引いたりします。例えば問3の1)で、3に対応する直線として1に書いてある線よりかろうじて長めの線を描いたり、5倍近い長さの線を描いたりします。
数概念が十分に身についていないまま九九や筆算に取り組まされ続ける子供達が思ったより多いということを小学校の先生方には意識していただきたいということを強調して、この項は終わろうと思います。
参考書:
[1] 稲垣真澄(編集代表)、特異的発達障害の臨床診断と治療指針作成に関する研究チーム(編集)「特異的発達障害診断・治療のための実践ガイドライン―わかりやすい診断手順と支援の実際―」診断と治療社、4,180円
[2] 熊谷恵子、山本ゆう「算数障害スクリーニング検査: 適切な学習指導は正確なアセスメントから」Gakken、2,860円
[3] 熊谷恵子、山本ゆう「通常学級で役立つ 算数障害の理解と指導法」Gakken、2,200円
[4] 河村 暁「数量処理とワーキングメモリから読み解く… 教室の中の算数障害 認知の視点でつくる教材と学習支援」明治図書出版、2,266円




