特別支援教育は、障害のある幼児児童生徒を念頭に置いた制度です。必ずしも医療機関での診断を求めるものではありませんが、想定された障害種は医学的な診断概念に基づくものです。学校生活で何か問題があるときは然るべき医療機関を受診し、専門的な評価を受け、そこで出された結論に応じて配慮するという流れが一般的です。しかし、専門的な評価が可能な医療機関は限られており、仮に診断が出るにしても早くても何か月も先、地域によっては1年くらい先になります。その間、意味のある支援を受けることができないまま放置されるのであれば、あまりにも時間を無駄にしていると言えます。とりわけ、学習面で躓いていると、教えられる内容はどんどんレベルが上がっていきますので、仮に診断後に適切な支援を受けることができたとしても遅れを取り戻すことが大変困難になります。このことへの反省に基づいてアメリカで始まった考え方がResponse to Intervention/Instruction (RTI)モデルです(図3)。
RTIモデルとは、科学的な根拠に基づいた妥当性のある指導を行い、指導に対する反応を踏まえて指導の頻度や内容を変えて行く予防と介入の支援モデルです[1]。通常RTIモデルはすべての児童を対象とする指導を第1層とし、捕捉的な指導を行う第2層、より高レベルの指導を行う第3層で構成されます。アメリカでは、このRTIモデルに基づいた段階的な指導が行われても十分な改善が得られないことを学習障害診断の条件としているそうです。つまり、病院などの特殊な専門機関で特別な検査をした上で診断し、それから支援を開始するのではないのです。必要な支援をさっさと始める義務が学校側にあるのです。そして、アメリカでの目安として、第2層支援の対象が全体の20-30%、第3層支援の対象が5-10%と言われています。
さて、上に引用した関あゆみ先生の論文によりますと、日本で実践されているRTIモデルによる読字支援の代表的なものは、すでに前節で紹介した「T式ひらがな音読支援」[2]と「多層指導モデルMIM」[3]です。どちらも実績のある良い方法です。特に強調したいことは、いずれもRTIモデルとして作成されていますので、個々の指導やアセスメントの技術のみならず、すべての生徒を対象として読みが苦手そうな子供を抽出し素早く支援するための枠組みを提供しています。「T式ひらがな音読支援」は書籍が安価ですし、第1段階の解読指導に限れば104枚のカードを用意するだけですので準備が簡単です。今まで読字困難児への対応を経験したことがなかった先生にはとっつきやすいかもしれません。MIMは1セットが2万円近いので個人で手をつけるには勇気がいるかもしれません。学校全体で導入される方が良いでしょう。とはいえ、技術的な難易度が高いわけではありません。むしろ、日頃子供達の指導に携わる教師の皆さんであれば取り入れやすい内容だと思いますし、T式に比べて複数の子供を対象に指導しやすいのではないかと思います。T式がまず解読指導、続いて語彙指導、の流れになっているのに対して、MIMは最初から単語単位のまとまり読みも意識された構成になっています。どちらか単独でということではなく、T式とMIMを併用することも可能だと思います。
RTIモデルでは、すべての子供を対象としていることが重要です。文字の学習に沿って言えば、第1層支援は通常の国語の授業ということになりますが、すでにこの段階で読みの苦手な子供の存在を念頭に置いたプログラムをすべての生徒を対象に施行する場合もあります。MIMではそのような指導方法が用意されています。そして、ある程度学習がなされた段階で全生徒にスクリーニング検査を行い、読字の困難さが疑われる子供を抽出し、補足的な指導を行います。これが第2層支援です。第2層支援がしっかり行われた状況で改善度を評価し、第2層支援のみでは改善が不十分な子供を対象に第3層の濃密な指導を行います。第2層支援を必要とする子供を抽出するためのスクリーニング検査はすべての生徒を対象に行うことが重要です。たまたま教師の目についた子供だけを支援するのではなく、すべての生徒の中から支援が必要な子供をもれなく見つけ出すことが重要なのです。そのために、T式ひらがな音読支援でもMIMでも、短時間にクラス全員の評価が行えるようなスクリーニング検査が用意されています。なお、前節で説明しました解読指導用のフラッシュカードを用いた評価方法は時間がかかりますので、クラス全員のスクリーニングには適していません。本格的にRTIモデルを実施するためには、それぞれの書籍に記載されているスクリーニング法を用いて書いてあるスケジュールに沿って評価を進めることをお薦めします。
私達の診療場面では、基本的な読字能力、しかも平仮名を読む力が不十分なまま支援を受けることなく学年が上がっている子供がとても多いという印象を持っています。読みが拙いことに気づかれないままに何度も長文を読まされることによってすっかり自信を失ったり読書や勉強をひどく嫌ったりし出した子供達を大勢目にしてきました。RTIモデルの重要性は、すべての生徒を対象に支援が必要な子供を早く見つけ出し、速やかな支援を提供できるという点にあります。この文章を読まれた、特に小学校教師や教育行政に携わる先生方にはぜひ、学校全体あるいは地域全体でのRTIモデルの構築を目指していただけないかと願っています。なお、付け加えておきますが、RTIモデルは読字の指導だけに限られた考え方ではありません。例えば、主として行動の問題への対応としての取り組みとしては学校規模ポジティブ行動支援(SWPBS)[4]というものがあります。参考になさってください。
参考書:
[1]関あゆみ「Response to instruction (RTI) モデルによる読みの支援:米国における縦断研究の動向と日本における取り組み」発達心理学研究 33 (4): 314-324, 2022
[2] 小枝達也、関 あゆみ「T式ひらがな音読支援の理論と実践ーディスレクシアから読みの苦手な子まで」中山書店、3,850円
[3] 梅津亜希子「多層指導モデルMIM読みのアセスメント・指導パッケージ つまずきのある読みを流暢な読みへ」Gakken、19,800円
[4]若林上総、半田 健、田中善大、庭山和貴、大対香奈子「学校全体で取り組む ポジティブ行動支援スタートガイド」ジアース教育新社、2,420円


