2014年8月2日土曜日

サイモン・シンとエツァート・エルンスト 「代替医療解剖」

https://www.facebook.com/amnesictatsu/posts/687311371286955 (2013/11/14) より転載

サイモン・シンとエツァート・エルンストによる「代替医療解剖」を遅まきながら読んだ。非常に面白かったという感想と共に、どこか先の見えない暗い気分を抱いている自分にも気付いてしまう。
 この本では主として鍼、ホメオパシー、カイロプラクティック、ハーブ療法を取り上げ、科学的臨床試験、特にメタアナリシスデータを根拠に有効性を検証している。また、有害事象についても広く検討している。巻末には鍼、ホメオパシー、カイロプラクティック、ハーブ療法以外の多くの代替療法について執筆時点で判明している科学的検討の結果を短くまとめている(僕の大好きなマッサージや指圧についてもまとめてある)。まあざっくりまとめると、限られた対象におけるごく一部の治療法を除き、ほとんどの大体療法は科学的な検討では効果が認められないし、明らかな危険性を有するものも少なからず存在する。どの代替療法であっても通常医療を否定してまで選択する理由は何もないということである。
 大変な労作だと思う。高々文庫本一冊分であるが(といっても読むにはそれなりの手間がかかるが)、これ一冊を仕上げるにあたって膨大な量の科学的知見(論文)を参照していることが分かる。これは「科学的に」何かを主張する時、とりわけ他者の主張を批判する時に普遍的に必要とされる態度でもある。たとえ一目見れば意味のないことが分かりそうな馬鹿馬鹿しい主張(ex. 有効成分の入っていない砂糖玉で全ての病が改善する!)であってもそれを科学的に否定する為には膨大なデータを準備することが求められるし、そこまでしても「有効であるという証拠は現時点ではない。」という極めて控えめな結論にさえなる。この調子で多くの人に適切な知識を納得させていくことは可能なのだろうか?と考えると、どうも楽天的にはなれず、気分は暗く沈んでいくのである。
 そこで教育の出番だっ!と考える人もいるだろう。実際、教育は重要だと思う。例え理屈が十分に理解されなくても、現時点で効果がないとかむしろ害があると判明しているものを繰り返し教えていくことで多くの人を役にも立たない代替医療にのめり込むことから救うことが出来るだろう。さらに、科学的検証法、特に統計学的なものの考え方を教えることが出来れば自力で情報を噛み砕いて咀嚼し、あやしげな医療に巻き込まれることから逃れられると思う。しかし、シンとエルンストも指摘するように教育機関でさえ根拠なく代替医療の推進に協力しているところは結構ある。僕の勤務校でも(幸い常勤講師ではなかったが)マクロビの立場から講義している授業が行われたことがあり、愕然としたことがある。
 教育も当てにならないとしたら、頼るは行政である。この本でも主張されているように、こと人の健康に関わることは全て一律に有効性と安全性を検証せねばならないという制度が望ましい。ところが現状ではそうなっていないばかりか、結構政府や行政の幹部に代替医療やとんでも科学の信奉者が入り込んでおり、今後システムが整備されていくことはあまり期待できない。
 以上に加えて、インターネットでろくに根拠もない情報があっという間に広がり信じられることが増えている社会状況も考慮すると、この問題が好転していきそうな気になかなかなれず、ため息をつくばかりである。

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