「頑張れ!」、「もう少し頑張ろう」、「皆んなやってるんだから頑張って」。別に教師や保育者でなくてもよく口にする台詞です。かくいう私もつい言ってしまうことがよくあります。しかし、「頑張れ!」という言葉を子供に向かって使う時は慎重に考える必要があります。子供本人が自ら進んで何かに取り組んでいる時、とりわけ楽しそうにあるいは面白そうに取り組んでいるときには問題ないことが多そうです。しかし、慎重になるべきなのはあまり成果を出せていない子供の場合です。授業や課題に集中できていない時、逆上がりの練習に取り組みたがらない時、集団での話し合いに参加しようとしない時、登校を嫌がり出した時、あまり軽々しく「頑張れ!」と言わない方が良いです。なぜならば、うまくいっていない子供たちはすでに頑張ってきたからです。それぞれの子供なりに頑張ったものの上手くいかないからやる気がなかったりイライラしたり拒絶したりしているのです。すでに頑張っているのにさらに「頑張れ」と言われてもげんなりするだけです。皆さんも徹夜続きでなんとか仕事をこなした直後に、上司から「よーし、もっと頑張ってみよう!」なんてことを言われたら逃げたくなるでしょう?
そうです。子供達はすごく頑張っているのです。学校や保育所ですべきことをきちんとしない、不適切な行動が多い、学習の成果が上がらない、などの問題が見られる子供に対処するとき、指導者はまず大前提として「この子はすごく頑張っているのだ」という意識を持っておく必要があります。すでに頑張っているのであれば、さらに頑張らせることで問題解決を図るということは実に馬鹿げたアプローチであるということになります。では、どうすれば良いのか。向かうべき方向性は明瞭です。子供が指導者から課された目標を達成できず頑張り続けて疲れて限界に来ているのですから、必要なことは「頑張れ」という励ましではありません。頑張った挙句に消耗しているのですから、その子供を楽にしてあげなければいけません。しかも、ただ単に休ませれば良いというものではありません。挫折感を抱かせないように、日々自分は何かをやり遂げているのだとか成長できているのだとか感じられる状態を作りつつ、楽に暮らせる工夫が必要です。
まず考えると良いことは、難易度と量の両方の面から見てその子供に適切な課題を設定することではないかと思います。当然、指導者は子供の能力や認知・行動の特性を正確に把握することが前提になります。難しく考える必要はありません。日頃の言動から、大体こんなところかなと当たりをつけて課題を準備します。子供がその課題をあまりにもあっさりと片付けられるならもう少しレベルを上げれば良いですし、かなり頑張らないとこなせない時や子どもが嫌がるようならレベルが高すぎます。ここで十分に意識しておかねばいけないポイントは、少し頑張れば達成できる課題にするということです。たとえ達成できたとしても、本人がすごく頑張ってやっとこなせる課題レベルや量は長期間維持できません。課題レベルの設定で迷った時には迷うことなく簡単な課題をまず選びましょう。簡単すぎることが判明すれば、それからレベルを上げれば良いことです。あくまで「楽に暮らせるようにする」というミッションを守らねばなりません。ごくたまにはずいぶん手応えのある課題を用意しても良いのですが、できたからといって調子に乗り、そのレベルの課題を出し続けることのないように気をつける必要があります。
その子供にとって課題や活動に魅力があるのかということも大事な観点です。課題を達成できただけでもそれなりに満足感があるものですが、さらにその活動や課題に面白さを感じたり興味を持てたりすると大変宜しい。皆さんが「頑張れ」なんて言わなくても、子供が勝手に張り切って取り組みます。どのような要素を付け加えれば面白くなるのかが最初からわかっていることはありません。結局色々な工夫をして反応を確認するしかありませんが、普段その子供が何に興味を持ち、何を喜んでいるのかを観察しておけば工夫のヒントが得られるかもしれません。例えば、長文を読解する課題に取り組ませるとき、虫が好きな子であれば虫をテーマにした文章を教材に選べば張り切るかもしれません。
「頑張れ」というセリフは、現場での子供の能力や認知・行動特性を正確に把握し、過剰な負荷をかけない程度の適切な課題設定とそのほかの環境調節を行い、ある程度余裕を持ちながらも日々成功体験を積ませ続けさせることのできる先生のみが口にすることを許されていると考えれば良いのかもしれません。
少し話がそれますが、発達障害のある子供の保護者に最近の学校での様子を尋ねた時、「担任の先生が『よく頑張っていますよ』と言ってくれます」という返事が返ってくることがしばしばあります。このような時、私の頭の中には警報が鳴り始めます。先生から見て「頑張っている」状態では、子供本人は頑張りすぎている可能性が高いです。それまで学校生活の中で何も問題を指摘されていなかったのに、ある日突然登校できなくなる子供では、先生が「よく頑張っていますよ」と言いたくなりそうな状態が事前に続いていることが稀ではありません。どの子供であっても本人の主観の中では頑張って暮らしていると考えておいた方が良さそうなのですが、とりわけなんらかの発達障害の診断を受けたことがある子が学校で何も問題なく暮らしているように見えるときには、その子は無理な背伸びをして過剰に頑張り続けている可能性があると意識してみる必要があります。
0 件のコメント:
コメントを投稿