保育者や教師が、自分が受け持つ子供の行動に問題を感じているのにその心配を保護者に共有してもらえない時、「親の理解が悪いから」と口にされることがあります。さすがに、保護者に面と向かって「あなたの理解が悪い」などと口にする先生は見たことがありません。私自身の経験では、研修会などで医師と雑談している時などにこのような発言が出てきます。おそらく、同僚同士の雑談などでは頻繁に出てくる表現ではないかなと推測しています。私がこんなに心配しているのに保護者はどうして理解してくれないのだろうかと戸惑われた経験を持つ先生が多いのだろうと思います。しかし、ちょっと立ち止まって考えてください。本当に理解が悪いのでしょうか。私の経験からは、必ずしもそうではないような気がします。
先生方から「理解が悪い保護者」と判断された親について考える時、私の頭にまず浮かんでくるのは非常に上手に子供に接している親です。意図しているのかセンスが良いからか分かりませんが、親が子供に非常に適切な接し方をするため家庭では大した問題が生じず、したがって親は何も困っていないという状況はよくあります。この様な場合、先生と親の話が噛み合わなくなってしまいます。そういう場合でも、親に順序立てて聞いていくと子供の行動特徴は結構しっかりと把握していることが多いです。じっとすることが苦手とか、集中が難しいとか、会話に噛み合いにくさがあるとか、冷静に把握していることが多いのです。つまり、親の理解が悪いのではなく困っていない状況なのです。この様な場合に、先生が「問題がある」とか「異常だ」というニュアンスを前面に出し、医療機関受診をせっついたりすると保護者もなかなか話に乗って来れないと思います。
先生から「理解が悪い」とみなされそうな、別のタイプの保護者もいます。それは、自分の子供に問題があることを受け入れられない人達です。このような保護者でも、自分の子供の特徴に何も気づいていないということはそれほど多くないのではないかと私は感じています。なぜなら、子供に問題があるかどうかではなく、保護者自身が家庭で子供に接する時に苦しんだり辛く感じたりすることがないかに焦点を当てて話をすると色々語り出すことがよくあるからです。例えば、「つい感情的に強く叱ってしまうことはありませんか?」という質問をする様な時です。学校園での問題や先生が心配していることを伝えても乗ってこない保護者は、現実を理解していない人なのではなく、子供にまつわる心配な事実を色々感じながらも、自分を保つために何とか問題の存在を否定しようとしているのかもしれません。
これらの場合には、どんな対応をすれば保護者との協力関係を築きやすいのでしょうか。簡単な解決策はありませんが、少なくともいくつか念頭に置いておくと良いかもしれないことがあります。第一に、日頃から先生が気になるエピソードをこまめに具体的に伝えておくと良いと思います。問題が非常に大きくなって先生が疲れ果ててから勢い込んで保護者に連絡することは避けた方が安全です。降って湧いたような学校園からの連絡を保護者が受け止めきれなくなるからです。日常的に小さなエピソードがこまめに伝えられている方が、保護者としても学校園での様子を想像しやすく、冷静に受け止めやすいと思います。
第二に、先生が問題と感じるエピソードを伝えるときに、できる限り良い情報も合わせて伝えた方が良いです。本人ができる様になったこと、努力していること、楽しめたこと、ほっこりするエピソードなどを合わせて伝えるようにすると良いと思います。そうすることで子供の学校園での生活が悪いことだらけなのではなく、問題があったとしてもそれは生活の中の一部分だということが親に感じ取れます。問題だけを、それも繰り返し伝えてしまうとかなり気丈な親でも参ってしまいます。
第三に、「問題」は誰にとっての問題か、ということを意識すると良いと思います。あくまで本人にとっての問題として伝えるのが原則です。先生や周りの子供達が困っていることもよくあるとは思いますが、まずは、本人を中心に据えた説明をすると良いと思います。楽しく有意義な集団生活を過ごしてもらいたいが、この様な状況が起こるため本人が十分に力を発揮できなかったり楽しい集団生活を送りにくくなったりしているので心配である、なんとかしたいと思っているという文脈で伝えるのです。併せて、先生なりに次にどの様な手立てを考えているかも伝えると良いと思います。打つ手がなくて困り果てているような伝え方よりも、たとえ確実ではなくても解決策のプランがあるように伝える方が、保護者は冷静に受け止められます。その際に、考えつく助言やアイデアが何かあれば教えて欲しいと保護者に伝えるともっと良いかもしれません。特に、子供の特徴を熟知し上手に接している親なら先生の仕事に役立つ良いヒントをくれるかもしれません。ただし、学校園で生じている問題を親に解決させようとすることは絶対に避けた方が良いです。例えば、「親御さんからもよく言って聞かせてくださいね」などと頼んだりすることはやめておくことをお勧めします。家で親が注意したら「はい、わかりました」と学校園での行動が変わるくらいなら、最初から何の苦労もありません。親に解決を依頼しても役に立たないばかりか、学校園でも家庭でも同じことについて説教されることになり、子供が安らぐ場がなくなります。親が学校園での問題を解決することはほぼ不可能だと考えておきましょう。親に何か依頼するのであれば、確実に実行でき、かつ、親子関係を悪化させないことに限っておく方が良いと思います。例えば、学校で何かの目標を達成できた時に、保護者から褒めてもらう様に依頼するというようなことなら簡単に実行できそうです。
最後に、保護者が共感してくれるかどうかに関わらず、学校園で生じている問題には保育者や教師が自分で対応せざるを得ません。先にも述べましたように、家庭で学校園の問題を解決することはできません。そして、現場には保護者はいませんから頼ることはできません。結局、問題を解決できる人は先生をおいて他にはいないのです。学校園での子供の様子を保護者が把握できる様にしておくことは大切ですが、学校園で生じた問題への対応は基本的に自分達がしないといけないと考え、腹を括りましょう。
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