2026年4月18日土曜日

自閉スペクトラム症の傾向 3

  本節ではDSM-5-TR[1]に記載された自閉スペクトラム症診断基準B項、すなわち「行動、興味、または活動の限定された反復的な様式」の説明をします。B項はA項よりも読んでわかりやすいのではないかと思います。ここに記載されている行動特徴はどれも、興味や活動の幅の狭さに由来し、繰り返し行動や変化に対する強い抵抗を示しています。

『(1) 常同的または反復的な身体の運動,物の使用,または会話 (例:おもちゃを一列に並べたり物を叩いたりするなどの単調な常同運動,反響言語,独特な言い回し).』

 これは、行動のバリエーションが狭く、反復行動が多いことを示しています。よく知られているのは反響言語です。これには即時型と遅延型があります。即時型反響言語(いわゆる「オウム返し」)は相手の台詞とまったく同じ言葉で返事をすることです(例:「何をしたい?」と質問すると「何をしたい?」と答える)。これを読んでいるあなたも相手の言葉に驚いた時などにオウム返しになることがあると思います。オウム返しを少しでもしたら当てはまるのではなく、繰り返し見られることが肝心です。遅延型反響言語は身の回りの誰かが言っていた台詞やテレビや動画で聞いた台詞などをその場の状況と関係なく突然言い出す現象です。幼児や小児ではアニメの登場人物のセリフや、最近では動画のセリフなどが多いです。反復的な発話もよく見られる特徴です。同じ単語やフレーズを、繰り返し口にします。同じ言葉を繰り返すことに特別具体的な意味はありません。

 自分と相手の立場が逆転した言い間違いをよくします。例えば、「~してあげた」と言うべきときに「~してくれた」と表現したり、「行く」というべき時に「来る」と言ったりします。幼児期には、「いってきます」と「いってらっしゃい」が逆になったり「おかえり」と「ただいま」が反対になっていたりします。英語圏では"I"と'you"が逆になることがよく記載されています。しかし、日本語では主語を明確に言わないことが多いので、一人称の逆転にお目にかかることはほとんどありません。年齢よりも大人っぽい言葉遣いをすることや過剰に丁寧な敬語を用いることが目立つ子供もいます。こういった特徴は知能の高い例に多く見られます。ただ、大人びた物言いや難しい言葉を好むものの、その意味を正確に理解できていないことも多いです。

 繰り返し行動(常同行動)の多さも(1)に該当します。幼児期にはおもちゃやミニカーなど、物をきれいに一列に並べることを繰り返すことが多く見られます。積み木などをひたすら積み上げることを繰り返す子供もいます。くるくる回り続ける、ぴょんぴょん跳び続ける、手をひらひらさせる、椅子の上で上体を前後にゆすり続ける、ともすればつま先歩きをするなどの常同的な身体運動は知的発達症(知的障害)を併存する例に多く見られます。ただ、知能に問題がない成人でも、自分の部屋など1人になると常同行動が生じることがあります。

『(2) 同一性への固執,習慣への頑ななこだわり,または言語的,非言語的な儀式的行動様式 (例:小さな変化に対する極度の苦痛,移行することの困難さ,柔軟性に欠ける思考様式,儀式のような挨拶の習慣,毎日同じ道順をたどったり,同じ食物を食べたりすることへの要求)』

 これは、自分を取り巻く環境や自分自身の行動の変化を嫌い避けようとする傾向です。慣れない場所、人、活動では不安になりやすいという漠然とした状況もよく見られますが、より明瞭で人目を引く行動として現れることが多いです。例えば、自分が着る服、食べるもの、自分のみならず他者の食器や座席などを決めてしまい、それらが変るとひどく嫌がる子供がいます。物事の手順や道順にこだわり、変えることを拒んだりします。

 予定の急な変更や普段と違う特別な行事で落ち着かなくなったり不安が強くなったりしやすいことが多いです。学校園での活動がいつもと違う教室になったり、普段はいない別のクラスの子供が同じ場にいたりすると動けなくなる子供もいます。多くの子供では活動の切り替えが苦手です。遊んでいるときに別のことをさせようとしてもなかなか切り替えられません。

 同じ質問をなん度も繰り返すことがあります。これは、しつこく要求を繰り返すこととは区別する必要があります。しつこく要求を繰り返すことは自閉スペクトラム症ではなくても、例えば注意欠如多動症の子供でもよく見られることです。繰り返す質問に対して、いつも同じ返答を要求することもあります。質問を繰り返す時、その内容はさまざまですが、予定に関連した質問が多いです(例:「今日、何時に〇〇へ行くの?」と何度も繰り返す)。

『(3) 強度または対象において異常なほど,きわめて限定され執着する興味 (例:一般的ではない対象への強い愛着または没頭,過剰に限局したまたは固執した興味)』

 (3)は特定の対象に極端に強い興味を注ぎ没頭する様子を示しています。また、興味の注ぎ方の程度の過剰さだけではなく、興味をそそぐ対象がその年齢や立場からは想像できない奇妙なものである場合も含みます。ミニカーやゲームなどは定型発達児でもしばしば好みますので、その程度の過剰さに注目する必要があります。質の異常さとはその年齢の子供が普通興味を持たないようなことに強い興味を抱くことです。例えば3、4歳の子供が天気予報やニュース解説を楽しみにしているような状況です。文字、数字、記号、道路標識などに強い興味を示すことも多いです。何かに強い興味を抱くことと裏表の関係にありますが、同年齢の子供の間で大いに流行っていることに全く興味を示さないことがよくあります。いわゆる、流行に疎い状態です。

 紐や棒をくるくる回し続けることや扇風機の羽を回し続けるといった単純な動きへの興味は知的発達症の強い例に多く見られます。単純な動きや音を出すことへの興味などは下で説明する感覚刺激への特殊な反応に入れるべきかどうか迷うことが多いです。

 知的発達症のない子供では、幼児期には単純なものに熱中していたとしても年齢が上がるにつれてある程度知的な活動であることが多くなります。例えば、昆虫に熱中する場合に昆虫の人形を集める一方で図鑑を繰り返し読み学名まで覚えるとか、電車に熱中する場合は時刻表を丹念に読み電車の形式名を全て覚え1つの駅から別の駅へ行く方法を熟知する、というようなことです。言うなれば、〇〇博士と呼びたくなるくらいにマニアックな知識を持っているのです。

『(4) 感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ,または環境の感覚的側面に対する並外れた興味 (例:痛みや温度に無関心のように見える,特定の音または触感に逆の反応をする,対象を過度に嗅いだり触れたりする,光または動きを見ることに熱中する)』

 感覚刺激への特殊な反応は、強い痛みや暑さ寒さに鈍感である一方で些細な感覚刺激にも妙に敏感であるなど、感覚の過敏性と鈍感さが混在していることが典型的です。また、感覚刺激の限られた側面に熱中することもありますし(例:キラキラ光るものを見つめ続ける)、感覚過敏と表現されることが多いですが特定の感覚刺激をひどく不快に感じることもあります。一般的には不快刺激にはとられない音や、不快であっても程度が軽いと思われている音をひどく嫌うことがよくあります。運動会のピストルの音、大勢の子供達の歌声やざわめき、ドライヤーや掃除機の音、などが嫌な音としてよくあがるものです。

 感覚的な特徴の中でも、強い偏食を示すことは特に多いです。料理や食材へのイメージがよくなると食べられるようになるものもあります。しかし、強い嫌悪感を引き起こすこともありますので、食べることを強要してはいけません。臭いに過敏な子供も多いです。手に取ったものはなんでも匂いを嗅いでみる程度ならあまり困りません。しかし、日常的な臭いに強い嫌悪感を感じるようになると、そのことで生活が制限されることがあります。

 視覚に関連した症状としては横目使いが多い、特定のもの(例:水の流れ、ファンなど回転するもの)を見かけるといつもじっと見つめてしまう、不思議なくらいに眩しがりやすい、といった様子が観察されることがしばしばあります。

 触覚に関連しては、特定の手触りや肌触りにこだわり繰り返し触る、特定の手触りや肌触りを嫌い触れない、体の特定の部位あるいは体中どこでも人から触られることをひどく嫌がる、などの症状がしばしば見られます。手を繋ぐことを嫌う幼児では、感覚の過敏性によるものか自由を制限されることを嫌っていることによるのかを区別する必要があります。衣服の材質や裾や袖の長さにこだわることや、衣服が水に濡れることを嫌がることなどもしばしば見られます。

 以上のように、さまざまな感覚刺激に対して特殊な反応が見られることがあります。何気なく見ているだけでは気づかないことも多いので、「感覚の問題があるかもしれない」と意識して日常の様子を確認する必要があります。感覚の問題はかなり生活の支障になることがあります。音楽など特定の授業や活動をひどく嫌っている原因が聴覚過敏であったとか、臭いが耐えられず給食の時間を嫌う、などということもよくあります。不登校につながることもありますので、甘く見てはいけない特徴です。

 B項の背景には思考の柔軟性の乏しさがあります。一度抱いた考えを切り替えることが難しので、見当はずれの確信を長く抱き続けることにつながりやすいです。


参考書:

[1]APA、日本精神神経学会、他「DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル」医学書院

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