発達障害のある子供への学校の指導が上手くいっていないことがしばしばある。もちろん教師の技量が低い場合もあるだろうが、必ずしもそうではなく単に先生の指導方法が子供個人の特性とあっていないこともある。いずれにしても、子供が学校生活にうまく適応できず困っているのなら保護者は率直に学校に懸念や心配を伝える方が良い。学校との話し合いを建設的なものにするために、僕は保護者に以下のことを念頭に置くように説明している。
1)礼儀正しく。人として、大人として当然のことである。
2)抽象的な表現を使わない。例えば、「子供の気持ちを無視した指導をする」といった曖昧な表現は避ける。抽象的で曖昧な主張は論証することが難しく、得てして水掛け論になってしまう。
3)心配な事実の時系列を元に話し合う。そのためには記録が大事。主観的な印象などは人によって受け止め方が異なるが、事実は議論の確固たる土台になりやすい。なお、子供の主張したことは、その内容が事実なのではなく、子供がそう言うのを保護者が聞いたということが事実。例えば、子供が「先生がめちゃくちゃきつく叱るので怖い」と言ったとして、本当に先生がめちゃくちゃきつく叱っているかどうかは不明である。ただ、子供がそう言ったということは事実だし、子供がそう感じている可能性が高いということは考慮すべきポイントとなる。
4)担任との話し合いが建設的に進まないときは、学校を代表する人に話し合いの場を作るように要望すると良い。保護者は心配な時の申し入れ先としてまず担任を考える。勘が良くフットワークの軽い担任ならそれでうまくいく。しかし、担任の人柄や力量によっては一対一の話し合いは泥沼になりやすい。そうなると、お互いに疲弊する。話が進まないときはいつまでも担任を相手にせず、校長、教頭、コーディネーターなど学校という組織を代表する人と話し合う方が良い。
5)学校を代表する立場の人と話すときに担任の人格や力量を批判しない。あくまで気になり心配な事実が生じていることについての対処を申し入れる。むしろ、一生懸命指導してくれている担任を学校として援助してあげてほしい、くらいの文脈で良い(あまりにも白々しくならなければ)。仮に、担任が明らかに不適切な発言や子供への接し方をしたということがあっても、その不適切な事実を事実として取り上げれば良い。それを元に担任の人格や考え方を非難することは避けるべきである。
6)子供自身や保護者の希望は率直に伝えれば良いが、よほど明確で具体的なこと(例:発達性読み障害があるので音声教材を使いたい)以外は、対処方法を要求するのではなく認識された問題の解決を求め、その方法は専門家集団である学校に任せる方が良い。原則として保護者は何か具体的な対策を要求するのではなく、子供が困っていることを伝えその解決を依頼するという立場に立つのが良い。
7)学校はすぐに動かない(動けない)ことが多い。一度の話し合いで物事が解決することは滅多にない。解決どころか問題を問題と認識するまでに時間がかかることがよくある。時間をかけ、繰り返し話し合いの場を持つ覚悟が必要がある。そして、話し合いを繰り返す都度、それまでの間に行った対処方法、本人の状況の変化や成果を学校側と共に振り返ると良い。この振り返りももちろん事実の時系列を中心にすることが大切である。さらに、次の話し合いをいつするかと次回までに何を目標にするかを決めておくのが望ましい。
8)第三者を交える。保護者としては子供が心配で焦る気持ちがあって当然である。その状況で上に述べたような配慮をしながら冷静に話し合うことはなかなか難しい。さらに、学校に対して専門的な助言をする必要が出てくることもある。そうなると、保護者だけで学校と話し合うことはかなりハードルが高くなる。できれば、相談支援事業所職員など、事情や子供の特徴を理解し発達障害についての知識もある第三者を交えることが望ましい。話し合いに同席できる専門的知識を持った第三者を見つけることが難しいなら、せめて話し合いの前後に相談できる専門家を確保しておく方が良い。
この文章は、子供の成長と幸せを実現するために保護者と学校が建設的な話し合いができるようにという前向きの動機で書いている。ただ、もっと消極的な理由もある。保護者が悪者になるという事態を避けたいのである。我が子が苦しんでいるとき、そしてその原因の幾許かを学校の指導に帰すことができそうなとき、親が冷静でいることは難しい。しかし、そのような感情に任せて碌に準備もせずに学校に乗り込むと、往々にして話し合いが建設的に進みにくいし、下手をすれば保護者がクレーマーやモンスターペアレントとみなされることにもなりかねない。そうなると事態は硬直し、子供がなかなか救われないことにもなる。上に記した配慮事項は子供と保護者自身を守るという意味でも念頭においていただきたい。
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