今回は、いわゆる問題行動と言われている子供の振る舞いの評価について説明したいと思います。ここでいう問題行動は、集中の難しさ、立ち歩き、かんしゃく、暴言、暴力などを含みます。最初に指摘せねばならないことがあります。それは、一般的に問題行動は適応的行動と考えられているということです。つまり、その子供が置かれた生活環境の中で自分が必要なものを何とか手に入れることや、耐えられない状況から何とか逃げ出そうとするための止むに止まれぬ行動であり、本人が何とか編み出した適応的な行動なのです。そう考えると、その振る舞いがいかに不適切かと説教することで解決することが非常に難しいことがわかります。止むに止まれぬ行動であり、その子供にとっては辛い状況を脱する手立てが他にないのですから、そうそうやめるわけにもいきません。子供の不適切な行動、しかも、繰り返し生じる行動への対処の基本は、そのような行動を取らずにはいられない苦しみから解放することです。その子供にとって必要なものをいかに与えられるか、その子供にとって堪え難い苦痛からいかに解放するか、ということが対策の主眼となるのです。これらのことを念頭に、「問題行動」という用語の代わりに「行動問題」とか「チャレンジング行動」という用語を推奨する人もいます。ただ、現状では通りが良いので、この文章では「問題行動」という言葉を採用しています。
以上のことを前提として、問題解決に向かうための問題行動のアセスメントはどのように進めたら良いでしょうか。一言で言えば、その行動を起こすことで子供が何から解放され、何を得ることができるのかを見つけるためのアセスメントが必要です。そのためには、問題行動そのものだけに注目していてもあまり得られるものはありません。では、何に注目すれば良いのでしょうか。
問題行動に限らず人の行動は基本的に環境に左右されて決まります。いや、人は自分の意思に基づいて行動するはずだ、と疑問を持たれる方も多いかもしれません。中には「俺の取る行動は全て俺の自由意志に基づいている!」と強く主張される方もいらっしゃるかもしれません。そのような方を論破できる力は私にはありません。ただ、現実場面で人を指導する時、好ましい行動を取るように指導するにせよ、好ましくない行動を減らすように指導するにせよ、行動は環境によって規定されているという前提を持って指導計画を立てるとうまく行くことが多いのです。ということは、問題行動のみに目を向けるのではなく、その行動をとった子供がどのような環境に置かれていたのか、ということを知る必要があります。この文章では、その立場から問題行動をアセスメントする方法を説明します。
まず、アセスメントの前提として、教師や保育者が問題と感じている行動を具体的に規定する必要があります。ルールを破る行動とか、わがままな行動とか、規律を乱す行動、などのように漠然とした捉え方ではいけません。友達の気持ちを考えないとか、努力しないとか、我慢が足りない、などのように目に見えない内面を取り上げることはもっといけません。極めて具体的に、かつ自分の目で確認できるように規定することが必要です。例えば、友達が使っているおもちゃを無理やり取り上げるとか、先生が説明しているときに大声を出すとか、授業中に席から立って歩き出す、のような形で規定する必要があります。その説明を他の先生に口頭で伝えたとき、相手が自分と同じ行動を思い浮かべられるように説明できたなら、具体性が高いと言えます。同じ子供に複数の問題行動が見られることがよくありますが、同時に全ての問題を解決しようとすると失敗します。まずは一つか二つの行動に絞ってアセスメントし、その対策を練ることをお勧めします。その際、どういう観点で絞れば良いでしょうか。自然な発想としては、本人ないし周囲の人々への影響が大きい、より深刻な問題から選ぶという方法があります。しかし、長期間にわたり先生が苦労して対処しているのに問題だらけ、という状況では、最も深刻な問題を変化させることは並大抵の努力では難しいです。「これならなんとか変えられそうだな」と思える、本人にとっても先生にとってもハードルの低い問題に絞ることが良い場合が結構あります。ささやかなことであっても、良い方向に進めることができたら子供本人も先生ご自身も自信がつきます。新たなことに挑戦しようという元気が出てきます。
対象となる問題行動を具体的に決めたらアセスメントを開始しましょう。まず評価すべきことは発生回数あるいは発生頻度です。これは単なる私の偏見のような気もするのですが、保育者や教師の先生方はあるかないか、解決したか解決しないか、という1か0かの思考をする傾向が強い人が多いような気がします。しかし、生物が起こす現象に有るか無いかだけで変化するようなものは少ないです。紆余曲折しながらも次第に減少するとか増加するといった変化を示すものが多いです。生徒(いうまでもなく生物です)の行動も、ゆっくりと変化することは多いです。その動きを確実に把握するためにはできるだけ定量的に評価しておく必要があります。発生数が多くていちいち記録できない、というような場合でも半定量的な把握は可能です。例えば、1回の授業あたり数回か、数十回か、1日に数回か、週に数回か、くらいの把握をしておくだけでも変化を捉えられることが多いです。なお、週に数回程度の現象であれば、スキャタープロット(図6)に記録しておく方法があります。問題行動を観察した時間にチェックを記入するだけなので簡便ですし、次に記載するような行動の発生要因を深掘りする際にも役に立ちますので、お勧めです。
問題行動の頻度を把握することと並行して行うことは、その行動が生じる環境のアセスメントです。頻度の把握と異なり、一つ一つのエピソードの評価が原則です。環境の特徴を把握するためのポイントは、問題となる行動が生じる前の状況と、行動が生じた後に見られる変化です。環境を分析する際に収集すべき情報は客観的に五感で確認できる事実のみです。その子供は〇〇君にライバル意識を持っていたとか、家庭では親があまりその子供に温かい接し方をしていないというような客観的な根拠がない情報を紛れ込ませないように充分気をつけるべきです。観察された事実を明確にし、自分の主観を紛れ込ませない態度が必要です。もう一点、把握できた事実は、必ず記録に残しましょう。図7に示したようなカードをあらかじめ用意しておくと良いかもしれません。頻度が高くて全ての詳細な記録が難しい場合は、前後の状況をしっかり把握できているエピソードのいくつかについて記録するだけでも役に立つと思います。
行動が生じた後の変化について具体的に把握すべきことは、事態が完全に鎮静するまでに本人及び他の人のとった行動です。他の人の行動はその場にいた全ての人の行動です。当然、その場にいたのなら教師や保育者自身の行動も含まれます。先に、問題行動は一般的に適応的行動と考えられると述べました。つまり、その問題を起こすことで子供自身が、最適な形とは言えないし一過性かもしれないけれども、苦しい状況から救われるのです。行動が生じた後の周囲や本人の変化を把握することは、その行動が持つ子供にとっての意味を推測することにつながります。その行動が具体的にどのような成果を子供にもたらすのでしょうか。多くの場合、要求が通る、嫌なことから逃げられる、人からの注目、のいずれかです。少し質の違うものとしては感覚刺激への欲求というものもあります。皮膚を掻きむしる、自分の頭を繰り返し叩く、などの自傷行為の一部(全てではありません)は特定の感覚刺激への欲求によって維持されます。これは他者を巻き込む騒動になることは少ないと思いますが、先生がやめさせようとして細かく叱り続けると騒ぎが大きくなるかもしれません。
要求が通ることの例は子供同士の関係性ではしばしば見られます。かんしゃくや暴力によって相手が使っているおもちゃを取り上げる、自分がしたい遊びに無理やり参加させる、といったことなどです。2、3歳児なら普通に見られる現象ですが、年中、年長クラスの子供や小学生であれば適切な言動で他児とうまくコミュニケーションを取ったり良い関係を築いたりすることが難しいという本人の特性が背景にあることが多くなります。そう考えると支援の糸口が見えてきます。嫌なことから逃げられる例としては、授業中に大声で騒ぎ回り授業を中断させるとか教室から追い出されるというような展開があるとき、その授業が理解できず苦痛に満ちていた可能性が考えられます。授業中に素っ頓狂な発言をしがちな子供は、自分の言動で周囲の子供達が笑いながら自分に注目していることがポイントかもしれません。人の注目を集めるための言動でわかりにくいものは、叱責されることです。相手が親や大好きな先生の場合、叱責されていることが本人にとっては注目されているという意味を持つことがあります(多くの場合、本人には意識はされていません)。このような場合、叱ることで問題行動を定着していることになります。
この話は以上です。生徒の問題行動に頭を悩ませている先生は、是非ともこれらの観点を意識したアセスメントをしてください。これだけの情報を揃えることで、この分野に詳しい人に助言を求める際に有益な回答を引き出しやすくなりますし、先生ご自身の子供の行動を見る目が広がっていくと思います。最後に、問題行動への対処には応用行動分析の知識が有用であることを付記しておきます。興味のある方は、応用行動分析について解説した書籍がたくさん刊行されていますので、それらのいくつかを手に取ることをお勧めします。


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