2015年3月12日木曜日

発達障害理解の入り口:障害病型別に学ぶことは適切か

 最近、教師が発達障害を理解するためにはどういう勉強をすべきなのだろうとよく考える。「教師」と書いたが、保育士やソーシャルワーカーなど、職業的に発達障害児の日常的な支援に携わる人たちを広く含む。
 発達障害のことを勉強するためにはまず、自閉症スペクトラム障害(広汎性発達障害)、注意欠如・多動症、限局性学習症(学習障害)を始めとして、関連する障害の一つ一つを教科書的に勉強するのが正攻法であろう。しかし、こういう正攻法で現実的な対応に生かせるレベルまで勉強することは結構な時間と努力を要する。発達障害児の親であれば自分の子供に関連のあるものに絞って勉強すれば良い。しかし、教師や保育士など職業的に発達障害児支援の中心となる人達は、様々なタイプの子どもたちに対応することが求められる。だからといって、膨大な領域に渡る事柄を理解し習得することは極めて難しいことではないかと思う。
 別に教師は発達障害の特別な勉強をする必要はないと言うつもりはない。大いに勉強すべきである。それどころか僕は、教師は発達障害に属する各病型の診断ができる力を身につけた方が良いとさえ考えている(ここに書いた)。発達障害の診断過程は子供の行動の評価尺度として利用できると考えているからである。診断できる様になって欲しいというからには当然、相当勉強しても罰は当たらないと思っている。だが、理想的にはそうあって欲しいと考えているが、現実を見たときには諦めの境地に至ることが多い。おそらく教師は忙しすぎる。日々の業務に追い回され、発達障害について十分に勉強する余裕などなさそうである。
 もちろん教師は真面目な人が多く、少なからぬ人たちが努力して様々な本を読んだり講演を聞いたり研修を受けたりしている。しかし、中途半端に個々の障害病型について勉強するため、断片的な知識の寄せ集めになりがちではないかと感じている。今、目の前にいる子供についての理解を深めるということに繋がりにくいようなのである。あくまで印象論にしか過ぎないのだが、なまじ自閉症やADHDといった個別のカテゴリーの存在を意識することが、却って実践的な発達障害の理解を妨げているのではないかと、最近は考えることが多い。多くの人は、子供が特定の障害病型に当てはまるのか否か、黒か白か、ということにこだわりすぎるのである。しかも、診断名が明らかになると対処法が明確になると強く期待しすぎているように思う。
 特定の診断カテゴリーに当てはまるかどうかの線引きは結構曖昧である。世の中は、ごくごく平均的な子供集団と典型的な発達障害に綺麗に別れるわけではない。発達障害は程度の問題なのである。極めて特徴的な典型例では判断に悩むことは少ないが、程度が軽くなってくると診断すべきかどうか決めることは難しい。比較的似たような特徴を持った子供の一方がADHDなり自閉症なりに診断され、一方が特定の診断はできないと判断されることはざらである。受診した医師が違っていれば結論は異なりやすい。医師が同じであっても、日常に問題があると考えている人が情報を伝えるか、問題がないと考えている人が伝えるかによって最終判断は違ってくる。そういうときには病院で診断されたかどうかで現実に生じている問題や有効な対処・指導方法が変わってくるわけではない。
 さらにややこしいことに、診断名と対処・指導方法が1対1で自動的に決まるわけではない。発達障害の各病型の診断名は、本人の物事の捉え方や行動の仕方の特徴を示しているだけである。そういう特徴を持った子供が日常の生活環境の様々な条件と上手くマッチしない時に問題が発生する。しかも、一人の子供が診断名には反映されないプラスアルファの特徴や問題を複数伴っていることが多い。そういう複雑な要因と生活環境との相互作用の中で暮らし辛さが発生する。現実的な対応は一つ一つの具体的状況に応じて戦略を練る必要がある。つまり診断名は、個々の具体的状況ごとに対応の方向性を決める際の、重要ではあるが一つの情報にしか過ぎない。
 発達障害は、病型が何であれ本人の認知・行動特性と環境との相互作用で具体的問題が生じる。このことを認識しておけば、必ずしも個々の病型についての詳細な知識がなくてもなんらかの支援を開始することが可能だと思う。必要に迫られて発達障害の勉強を始めた人が、個々の病型の詳細な特徴を学ぶことから始めていたら、時間がいくらあっても足りない。すぐにでも何らかの支援を実行できるようにするためには、個々の病型について学ぶよりも先に抑えておくべきことがあるのではないかと思う。それは、「知識を得ること」ではなく、「考え方を学ぶ」ことである。発達障害理解の入り口として個々の障害病型を勉強するよりも先に理解しておくべきと僕が考えることは以下の通りである。長くなるので、詳細は稿を改めて説明する。一つ大きな特徴を指摘すると、具体的支援方法には言及していない。支援方法を知ることよりも、子供を理解できるようになることの方が優先順位が高いと考えているからである。

1.大前提
1)発達障害は認知・行動特性と環境のミスマッチであり、その種類は一つではない
2)問題を認める
3)本人の性格に原因を求めたり、倫理的問題にしない

2.対策よりも評価・分析
1)状況を具体的に認識する
2)日常全般から本人要因を推定する
3)本人要因を前提に環境との不整合を考える

3.その他
1)病院は重要だが、受診を焦らない
2)教師が(自分が)成し得てきたことを確認する

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