マッサージを受けた生後4ヶ月の男児が死亡した(日本経済新聞 http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG06010_W4A900C1CC0000/ )。乳児の首をひねっているうちに死亡していたということで、とんでもない話だ。ネットでは、死亡した子供本人ではないがマッサージ中の写真を見ることが出来る(例えば、 http://matome.naver.jp/odai/2141022200070873901 )。相当長時間首を強く回転させたり、前後屈させたりしていたようだ。赤ちゃんは見るからに苦しそうに泣きわめいているらしい。当然だろう。しかし、終わりの頃には放心状態でぐったりするとのこと。施術者はこのマッサージによって「免疫力」が上がると説明していたようだ。不可解なことに、施術者は不起訴になっている。
さて、ここではこのような危険な民間療法を放置していることの是非を論じるつもりはない。というか、ここから話はどんどん明後日の方向へ進む。この事件を知ったとき、もちろん危険な民間療法が野放しにされていることへの怒りを感じた。それと同時に、疑問に感じたことがある。長時間にわたり子供が苦しみ続けている状況を親が止めること無く見ていたことである。もちろん、親は子供のためにと考えていたのであって、子供を苦しめたいと思ってマッサージを受けさせた訳ではないだろう。僕が分からないのは、このように明らかに苦しんでいる状況を「子供のためになる」と信じ込めたのは何故だろうということだ。乳児を(大人であっても)苦しめることが本人のためになるということは滅多に無い。それを許容するためには一時苦しんでも、その後に良い状態が待っているということについて、かなり説得力のある合理的説明が必要である。そのためには、例えば医療の様に長い年月にわたって構築された学問大系と、医師免許という国によるお墨付きが必要となる。そうであってさえ、目の前で子供が酷く苦しむ様子を見た時に、そんなものが本当に役に立つのかと疑問に思う方が自然だろう。脱水症の時に点滴を勧めても、不憫に思ってなんとか断ろうとする親は結構いる。
当然、今回の事件では施術者の説明が相当上手だったという可能性は高い。この施術者のもとには被害にあった乳児だけではなく、かなり多くの子供がマッサージを受けていたようであり、多くの親を納得させる力が施術者にあったのだろう。ただ、ここにはもう一つ別の要因があったのではないかと僕は睨んでいる。客観的な根拠は無い。あくまで僕が密かに疑っているだけのことである。それは、世の中には苦しむことに価値を見いだす人々が少なからず居るということだ。苦しいから意義がある、痛いから良く効く、辛いから成長する、と考える人達である。このたぐいの人々は、どのように素晴らしい成果を目の当たりにしても、当事者が苦しんだ経過が無ければ価値が半減すると感じるのだ。「良薬口に苦し」、「お腹を痛めた子だからこそ愛おしい」、「歯を食いしばり頑張った暁には云々…」補足しておくと、ここで苦しむ主体は他者である。自分から縁の遠い「他人」である程気安く無邪気に苦しむことを求める。しかし、教師が生徒に、親が我が子にさえ苦しむことを求めてしまうことも多いのではないかと僕は疑っている。
確かに何かを成し遂げるときや何かを生み出すときに、その過程で苦しみが伴うことはしばしばある。しかし、その結果を評価する時には何を成し遂げ、何を生み出したかで評価すべきである。どれだけ苦しんだかということは問題ではない。何の苦しみも無かったとしても、成し遂げたことが素晴らしければそれで良いのだ。過去の過程でどのくらい苦しんだかということを評価の基準にする必要はさらさらない。苦い薬が良く効くとは限らない。毒になる可能性だってある。歯を食いしばって痛みを耐え、潰れていく人も大勢いる。そんなことは大人なら誰でも知っているはずだ。しかるに、成し遂げた結果よりも苦しんだことを重視する人は多い。苦しみ自体の目的化である。手段の目的化に似ているが、誰かが苦しむことを待ち望む態度はさらに見苦しい。
子供でも大人でも、苦しんでいる状態自体は決して健康的ではない。状況が何であれ、苦しんでいる人達は体かあるいは心が傷つきつつあるのだ。何の見通しも無く放置するべきではない。人が苦しんでいるときは、どうやって苦しみを軽減していくかを考えるべきである。限られた時間を耐え続ければ必ず苦しみは和らぎ、新たに手にするものが豊富にあることを確実に見込めるのであれば(例えば病気で手術をするときの様に)、耐え抜くことを励ましていくという選択肢もあるのかもしれない。しかし、何の見通しも無い中で苦しみ続けることにメリットがあるとは思えない。苦しむことを目指させるのではなく、具体的な目標を達成するための合理的な方法を助言する援助こそが重要だと思う。
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