片付けがてんでダメで、忘れ物も多いが面倒臭くてメモも取れないという子供がよくいる。何度もなんども教師が注意したり叱ったりするものの一向に改善の兆しがない。もうこうなったら自分で解決することはまず無理だし、といって放置すると様々なことで不利になる。だったらこまめに指示を出したり、必要な手順を表にして机に置いてあげるなりして、苦手なことで躓きっぱなしになることを避け、本来自分が持っている能力を十分に発揮できるようにしてあげる必要がある。
僕の外来にはこういうタイプの子供がよく受診する。最近、こういう片付けが全くできないしメモも取れない子供を育てているお母さんが、学校の先生に連絡帳をきちんと書いているかどうかを確認して欲しいと頼んだ時の経験を語っていた。本人任せではまず無理なので先生に協力して欲しいと頼んだ訳だが、教師は「このままずっと自分でできないと将来困ることになる。だから手伝うべきではない。」と返事をしたとのことであった。
「このままでは将来困るから」というセリフはこの事例に限らずとてもよく耳にする言葉である。片付けができず忘れ物が多い子供がいても「このままでは将来困るから」手伝うことなく自分でなんとかさせようとする。何かと言えば口を荒らす子供には、「このままでは将来困るから」悪い言葉遣いをするたびに逐一叱ろうとする。発達障害のある子供のための専門外来をしていると、稀ならず見聞するエピソードである。
この種のエピソードにはほぼ例外なく共通する問題がある。「このままでは将来困るから」という意見に問題はない。確かに困る可能性が高い。ならば、少しでも将来が明るくなるように変化をもたらす方策を探るべきだろう。しかし、担任がこういうセリフを口にする事例では、1ヶ月経っても半年経っても事態がほとんど改善していないのである。改善しないどころか子供本人は一層投げやりになっていたりもする。本当に「このままでは将来困るから」と心配するのであれば、何か有効な対策を考えようとするのが自然な発想だと思う。しかし、少なくとも個人的な経験で見る限りは、積極的な援助策を講じようとしない教師に限って「このままでは将来困るから」と口にしがちである。そして、「自主性を育てる」と称してうっかりぼんやりした子供には忘れ物が多い状態を続けさせる。口を荒らす子供がますます荒れ出しても、口を開くたびに細かく細かく叱り続けることになる。そして時々、ちっとも改善しないとこぼしてため息をつく。
多分、今までのやり方と違うことをするのが面倒なのだろう。別に教師に限った話ではない。今まで繰り返してきたやり方を変えることに強い抵抗を感じる人は一定数いると思う。そして、十年一日のごとく同じ行動をとることに問題があるかもしれないと指摘されかけた時、自分の振る舞いを正当化する理由が必要になる。それが「このままでは将来困るから」なのではないだろうか。真の問題設定として「このままでは将来困るから」と思うなら、成果を出せそうな戦略を立てる必要があるし、一定期間の後に成果が上がっているかどうかを評価する必要がある。言うまでもなく、何ヶ月あるいは半年も事態が改善しないような介入法が成果を出せるはずがない。
上記のお母さんには、先生にこう言ように提案しておいた。「なるほど、手助けせずに放っておいたらこの子は自分でできるようになるのですね。先生は勝算をお持ちなのですね。あと何ヶ月見れば明らかな改善が見られると計算しておられますか。もしその時まで待っても改善が見られない場合には、次に打つ手も準備されているのですね。」
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