本節では、DSM-5-TRの注意欠如多動症診断基準に記載された(1)不注意の症状項目を見ていきましょう。不注意とは、必要なことに注意を向けられないことや、必要なことに注意を持続できないことを意味します。日常的な表現を用いればうっかり屋さんとかぼんやりやさんくらいに考えれば良いでしょうか。(1)不注意には、(a)から(i)までの9項目の症状が記述されています。日常の様子を念頭に置いて当てはまる数が多いほど不注意の強い子と判断すれば良いです。『』内はDSM-5-TRの注意欠如多動症診断基準からの引用です。
『(a) 学業,仕事,または他の活動中に,しばしば綿密に注意することができない,または不注意な間違いをする (例:細部を見過ごしたり,見逃してしまう,作業が不正確である).』
これはいわゆるうっかりミスの多さです。コップをひっくり返したり、紙を破いてしまったり、物にぶつかったり、躓きやすかったりといったことです。転んだりぶつかったりしやすいので、小さな怪我(ときには大きな怪我も)がしょっちゅう見られることもあります。小学生の学習面では、引き算を足し算にしてしまったり、問題文を最後まで読まずに判断するので間違えたりします。
『(b) 課題または遊びの活動中に,しばしば注意を持続することが困難である (例:講義,会話,または長時間の読書に集中し続けることが難しい).』
いわゆる集中力の問題です。遊びでさえ転々とする子がいます。遊びには集中するけれど、さほど興味のない活動をさせると続かない子もいます。授業の前半は先生の話を聞いたり問題を解いたりしているのに、後半には窓の外をボーと見ていたりします。不注意傾向が強くても、特定の活動、主に自分が好きなことにはむしろ過剰に集中している子も多いです。そのような子であっても、生活の中の多くの活動で集中できなければ該当すると考えましょう。
『(c) 直接話しかけられた時に,しばしば聞いていないように見える (例:明らかな注意を逸らすものがない状況でさえ,心がどこか他所にあるように見える).』
不注意が強いと人の話を聞いていないことがよくあります。まるで耳に入っていないように見えることもありますし、話の一部しか頭に入っていないこともあります。何かに熱中したり気を取られたりしている時のこともありますし、特に何もしていない時でも人の話を聞いていないことが多い子供もいます。長々と説明していると、次第に生気のないぼんやりとした表情になり、見るからに上の空になっているように見えます。全く聞いていないのではなく、人の話の一部しか頭に残っていない子供もこの項目に該当します。
『(d) しばしば指示に従えず,学業,用事,または職場での義務をやり遂げることができない (例:課題を始めるがすぐに集中できなくなる,また容易に脱線する).』
「指示に従えず」という表現がありますが、これは反抗的という意味ではないことに注意してください。指示された作業を一気に最後まですることができず、途中で横道に逸れて関係ないことをし始めることを意味しています。意図して指示した人に逆らっているわけではありません。着替えの最中に転がっていたおもちゃをいじり始めたり、食事の最中に手を止めて隣の子供とのおしゃべりに熱中し始めたり、プリントに取り組んでいる最中に消しゴムのカスを集めて丸め出したり、というようなことです。その結果、何かと時間がかかることになりやすいです。
『(e) 課題や活動を順序立てることがしばしば困難である (例:一連の課題を遂行することが難しい,資料や持ち物を整理しておくことが難しい,作業が乱雑でまとまりがない,時間の管理が苦手,締め切りを守れない).』
(e)は要領の悪さ、段取りの悪さを意味します。あまり手順を考えずに目についた物に手が伸びたり、無駄な動きが多かったりします。要領の悪さが表面化しやすい活動として、片付けが非常に苦手な子供が多いです。(d)と同様に作業の途中で横道に逸れるため要領が悪そうに見えることもあります。そこを厳密に区別することは難しいと思います。
『(f) 精神的努力の持続を要する課題 (例:学業や宿題,青年期後期および成人では報告書の作成,書類に漏れなく記入すること,長い文書を見直すこと) に従事することをしばしば避ける,嫌う,またはいやいや行う.』
小学生なら同じ漢字を何回も書いて練習するとか単調な計算問題をたくさんするということなどの時の様子を考えれば良いと思います。就学前の幼児では「精神的努力の持続を要する課題」があまりないかもしれませんが、部屋中に散らかっているおもちゃを片付けるように指示した際のことを考えれば良いかもしれません。不注意の強い子供では、平均的な子供よりも与えられた課題の量が著しく多いと感じがちです。そのため、なんとか取り組まずに済ませられないか、という方向に発想が向きやすいです。ただし、学校で公然と逃げ出す子供はかなり限られます。むしろ多いのは、家庭で親から宿題をしろと指示されたのに後回しにして逃げようとするため、親子喧嘩になることです。話は逸れますが、宿題で親子関係を崩すような事態になると、結局その子供にとっての利得と損失のバランスはどうなるか、ということは担任の先生にはよく考えていただきたい点でもあります。注意欠如多動症の傾向が明確に見られる子供では、反復学習をひどく嫌がることが多いです。典型的な例は漢字の練習です。何故だかわかりませんが、小学校の先生は漢字を習得させる際に、同じ字を何度も繰り返し書かせることが好きなように見えます。このような反復学習をひどく嫌う子どもには他の学習方法を工夫した方が良いと思います。
『(g) 課題や活動に必要なもの (例:学校教材,鉛筆,本,道具,財布,鍵,書類,眼鏡,携帯電話) をしばしばなくしてしまう.』
(g)は、始終「あれがない」「これがない」と探し回っているような状況を示しています。中には本人は気にしていないのだけれどその子が触ったものはすぐになくなるので周りの人が困っているという場合もあります。小学生では、紛失した小物やプリントが机の中やランドセルの底からごっそり見つかるということも多いです。この失くしやすいという特徴は、物を使い終わったら片付けるよりも先に次の活動に注意が集中してしまうので、どこに置いたかわからなくなることで生じています。つまり、片付けられないことにも通じる特徴です。
『(h) しばしば外的な刺激 (青年期後期および成人では無関係な考えも含まれる) によってすぐ気が散ってしまう.』
読んで字の如く、気が散りやすいことを意味します。取り組んでいる課題や作業に関係ない音や視覚的な刺激に注意を取られるため、しばしば作業が中断します。場合によっては、自分が今何をしているのかがわからなくなり、作業が後退したりもします。人が何かを説明しているときにも気が散るので(c)の状態につながります。何をしている時でもキョロキョロと視線が移ろっている子もいます。このような場合、自閉スペクトラム症の特徴である「視線があいにくい」ということと区別しにくくなります。DSM-5-TRの原文には「青年期後期及び成人では」と表現されていますが、自分の頭に浮かんだ考えに気が散ることは子供でも多いように思います。
『(i) しばしば日々の活動 (例:用事を足すこと,お使いをすること,青年期後期および成人では,電話を折り返しかけること,お金の支払い,会合の約束を守ること) で忘れっぽい.』
様々な忘れ物をします。授業や活動に必要なものを忘れます。親に伝えるようにと念を押したことを忘れます。朝、せっかく準備をした物をカバンやランドセルに入れて玄関まで持ってきているのに、靴を履いたら手ぶらでドアを開けて出て行く子もいます。多くの場合、自分が楽しみなことは覚えていることが多いのですが、それでさえ忘れてしまうこともあります。今まさに実行しようとしていたことや話そうとしていたことでさえ、何かのきっかけで忘れてしまいきょとんとしていることもあります。
(a)から(i)の9つの項目はすべて、大なり小なりお互いに無関係ではありません。子供の具体的な行動をどの項目に当てはめれば良いのかを考えているうちにわからなくなってしまうこともあるかもしれません。しっかりと責任を取らねばならない正式な診断を下すわけではないのですから、あまり真剣に悩まず勢いで決めてしまえば良いと思います。次節では多動-衝動性の症状項目について説明します。